巨人丸、4回の本塁打(左)と6回の本塁打
巨人丸、4回の本塁打(左)と6回の本塁打

丸の2発はいずれも体が自然に反応した素晴らしい当たりだった。そして打った2本それぞれに違った高度な技術が隠されていた。4回の同点21号は左投手の内角球を一番飛ぶポイントではじき返した。普通の打者であれば腕が縮こまり、窮屈に打たされるところ。だが丸はインパクトまでは両手で、とらえた後は右手1本でうまく払うようにライトスタンドへ運んだ。

一方、2本目のレフトへの22号は左手の使い方がカギだった。逆方向へ打つ時、最初から流そうと意識するとヘッドが遅れてファウルになりやすい。あの場面では外角球に自然とバットが出て、しかも今度は最後まで左手を離さず、レフト方向へ強く押し込んだ。矛盾しているような言い方だが「レフト方向へ引っ張る」という感覚だ。だからレフトへああいう大きな当たりになるのだ。

丸はこうした技術を練習やゲームの中で繰り返し、自然に出せるようになった。だが若手は工夫しないとダメだ。原監督の采配が的中し、石川がサヨナラアーチを放ったが、彼はその工夫ができていた。「最低でも走者を送らなければいけない」という場面だったこともあるが、バットを普段より一握り短く持ってエスコバーに対応しようとした。だから154キロの速球をはじき返すことができた。

今季ここまで巨人を見てきて、若手からそういう臨機応変さを見て取れることは少なかった。10回の攻撃でも田中俊がもう少しバットを短く持っていれば、右前打ではなく外野の頭を越すサヨナラ安打になっていたかもしれない。ベンチから見ていて、頭を使って工夫している選手は、失敗しても次も起用しようという気になるものだ。若手はいきなり丸のようになろうとするのではなく、まずは「どうすれば成功できるか」を考え、工夫してプレーすることが大事だ。(日刊スポーツ評論家)

11回裏巨人無死二塁、代打石川慎吾はサヨナラの2点本塁打を放つ(撮影・加藤諒)
11回裏巨人無死二塁、代打石川慎吾はサヨナラの2点本塁打を放つ(撮影・加藤諒)