日刊スポーツ評論家の浜名千広氏(50)が、今季を振り返る企画「浜名論~プレーバック2019~」の第2弾は今季のMVP。浜名氏は迷いなく甲斐野央投手(23)を挙げた。ルーキーながら勝利の方程式の一角を担って65試合に登板し、日本一に貢献。メンタルの強さ、プロ向きの性格が大きな要因と指摘した。【取材・構成=浦田由紀夫】

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今季の甲斐野は誰が見ても申し分ない成績を残した。ルーキーながら65試合に登板し、年間フル1軍でプレーを続けた。セットアッパー、クローザーも務め、三振が取れる150台後半の速球と鋭く落ちるフォークを武器に、ピンチを救った。浜名氏は、マウンドでの姿を見て精神的なタフさが印象に残ったという。

浜名氏 普段、練習時の目つきと、マウンドで勝負しているときの目つきが全然違う。甲斐野はメンタルの「オン」と「オフ」の切り替えがうまいんだと思っている。

甲斐野の役目は主にセットアッパー。7回もしくは8回の1イニングを抑える中継ぎだが、僅差でマウンドに上がる場面は、少しの気のゆるみも許されない。1球1球の重みは計り知れない。それをはねのける投球術はもちろんだが、向かっていく気持ちが強い。

浜名氏 調子がいい時も悪い時もそれなりに抑えていた。自分の気持ちをコントロールできる力を持っていると思う。ルーキーながら開幕戦でいきなり初登板初勝利。開幕から13試合連続無失点のプロ野球新記録を樹立しても、おごることはなかった。心に隙がない。たいしたものだ。

チームの中では「いじられキャラ」でもある。特に守護神森から一番いじられ、ブルペン陣の中で「いやし」的な存在でもある。

浜名氏 フニャっとした性格だからマウンドに行くと別人に変われるのかもしれない。四球を1つ出しただけでも自分を忘れる投手は多いが、ビビることなく打者に向かっていた。そういう姿勢は野手に伝わる。勝負にいっていると思えば、打たれても四球を出しても納得がいく。その立ち居振る舞いに逃げはない。だから甲斐野が抑えて降板した後、野手が頑張って逆転などドラマが生まれたのかもしれない。

また、投球だけでなく、守備の面でも光るところがあったと指摘した。もちろん、65試合登板で失策はゼロだった。

浜名氏 新人だと緊張して守備に不安が残る場合があるが、バント処理などのフィールディングはうまかった。それはキャンプ、オープン戦からそうだった。オープン戦で結果を残して文句なしで開幕1軍の切符をつかんだのは当然だった。今季、甲斐野がいなかったが、ホークスの投手陣がどうなっていたか。想像するだけで怖い。

◆甲斐野央(かいの・ひろし)1996年(平8)11月16日生まれ、兵庫県出身。東洋大姫路では主に三塁手。東洋大に進んで本格的に投手に転向。プロ入り前に最速159キロをマークした。18年ドラフト1位でソフトバンク入団。ルーキーイヤーの今季は、65試合登板、2勝5敗、26ホールド、8セーブ。58回2/3を投げ奪三振は73。奪三振率は11・20。防御率4・14。追加招集でジャパンにも選ばれ、11月のプレミア12では中継ぎとして優勝に貢献した。187センチ、86キロ。右投げ左打ち。