勝てる試合に勝てなかったソフトバンクにとって、悔やまれる試合になった。3点をリードした7回裏、4番のグラシアルに守備固め。9回に打席が回る主砲を外した狙いは、言うまでもなく“逃げ切り勝ち”。しかし、そんなベンチの意図を、守りの要でもある捕手の甲斐は分かっていなかった。

7回裏2死一、三塁で、打席に山川を迎えた。7番打者とはいえ、2年連続で本塁打王の山川に対し、絶対に避けなければいけないのは同点3ラン。山川の本塁打さえ回避できれば、8番は外崎で9番は木村。2人とも打率は高くなく、本塁打の確率は山川に遠く及ばない打者だった。極端に言えば、山川に四球を与えても本塁打だけは避けなければいけない状況だった。

投手は本格派の石川で、ここまでの球数は90球。まだ余力はある状況で、自分の一番の武器でもある直球で力勝負するのは悪くない。初球の143キロの直球はど真ん中だったが、山川は振り遅れて差し込まれてファウルになった。

問題はこのファウルをソフトバンクのバッテリーがどう分析したか。山川が追い込まれた状況で直球を差し込まれたなら、変化球の比重を高くしていたために振り遅れた可能性は高い。ただ、初球の直球をフルスイングで差し込まれていただけに、単純に山川の状態が悪いから振り遅れたと考えるのがセオリーだろう。もし仮に「真っすぐを振り遅れたから、今度は差し込まれないようにタイミングを早めにして振ってくるんじゃないか」と考え、直球を続けるのが嫌だったとしたら、変化球はボールゾーンに投げ、山川の様子を探る慎重さが必要だった。しかし、高めのカーブに対し、タイミングはドンピシャリ。カーブを狙っていたというより、直球より遅い変化球に自然にタイミングが合ったような本塁打だった。

ただでさえ今季の山川は、速い直球に立ち遅れる打席が多く、思うような打撃ができていない。結果論ではなく、直球を続けていたら打ち取れなくてもファウルや見逃しでバッテリーが絶対有利のカウントに追い込めていたと思う。

甲斐の勝負どころでの「押し引き」にも疑問を感じた。9回1死満塁で、投手はストッパーの森で、打者は木村だった。ここでの初球はフォークで、見逃してボール。ここは絶体絶命の場面で、カウントを悪くしないためにも初球はストライクゾーンへの直球でファウル狙いが正解だろう。2球目は内角の直球でボールで、3球目は低めのボールくさい速球だったが、木村がファウル。狙い球を絞り、犠牲フライの打ちやすい高めを待っていればいい場面でボールくさい低めの球に手を出した打者の木村に助けられた。結局、バットを短く持つこともしなかった木村は三振だった。

次打者の金子の初球は速球で外角ボールになった。ここは2死で、打者を抑えることだけに専念すればいいだけに、フォークから入ってよかった。甲斐のリードは相手をかわすことを優先にした「捕手主体」のリードに感じる。リードには「投手主体」「打者主体」「状況主体」の3種類をメインに組み立てるべき。2位のロッテは主力が離脱し、ソフトバンクが普通に野球をすれば、優勝の確率は高いと思っている。結果オーライの野球を脱するためにも、甲斐はリードの基本を考え直した方がいいだろう。(日刊スポーツ評論家)

西武対ソフトバンク 延長10回裏西武の攻撃を抑え、甲斐(左)とグータッチする高橋礼(撮影・河田真司)
西武対ソフトバンク 延長10回裏西武の攻撃を抑え、甲斐(左)とグータッチする高橋礼(撮影・河田真司)