日本シリーズはソフトバンクが4連勝で巨人を圧倒した。名門阪急ブレーブスのエースとして、通算284勝を挙げた山田久志氏(日刊スポーツ評論家)が日本一決戦を振り返った。【取材・構成=寺尾博和編集委員】

   ◇   ◇   ◇   ◇   ◇

ソフトバンクの強さを語るとき、パワーばかりが強調されるが、それは前々から言われていたからね。巨人とのシリーズから感じたのは「パワー」に「スピード」が加わったことだ。

それは単に足が速いというだけじゃない。周東はじめ、柳田らに、外国人グラシアルらまで走れる選手がそろう。でも盗塁ができるといった走塁面だけを指摘しているんじゃない。

それはピッチャーのスピードにも言える。例えば中継ぎのモイネロは、かつての中日岩瀬をほうふつとさせたよね。投手の球速だけでなく、打者のスイングスピードにもセ・リーグとの差を感じた。

また、ソフトバンクには「スピード野球」にプラスして作戦面、選手起用の妙もあったね。そこはレベルの高いパ・リーグを勝ち上がってきた工藤監督の経験からくるものでしょう。

第3戦は7回まで無安打だった先発ムーアをあっさりと交代させた。投手出身の監督であればなおさらできない。わたしだったら代えていないよ。おそらくヒットを打たれるまで交代はなかったと思うんだ。

なぜ代えたかの真意はわからない。ノーヒットノーラン達成なら球史に残る大記録だ。しかし工藤監督は割り切っていたようで、これがおれの野球だという信念が伝わってきたもんね。

それと付け加えると、打つことに関しては、「振るんだぞ」という王さん(ソフトバンク会長)のイズムがチームに徹底され、浸透しているような気がするね。

一方、巨人は調整が難しかったと思うね。CS(クライマックスシリーズ)がなかったのがマイナスに働いた。初戦の2点ビハインドの4回に丸がゲッツーを食らった場面など勢いに乗れなかった。

ただ若手にはいい経験になった。特に捕手の大城はソフトバンクの各打者に大事な場面で打たれた「1球」が頭にこびりついて離れないことだろう。

ソフトバンク甲斐も広島との日本シリーズから急成長した。大城にまだ余裕はないだろうが、ここでマスクをかぶったことが大きい。それは岡本、松原、吉川尚らにも言えることだよ。

阪急でプレーした我々はV9時代の巨人に何度もはね返されたもんね。でもその屈辱が福本、加藤、山田を育てた。巨人は敗れはしたが、勝てなかったことがきっと成長の糧になるよ。

ソフトバンク工藤公康監督(右)(2020年11月25日撮影)
ソフトバンク工藤公康監督(右)(2020年11月25日撮影)