楽天にとって前夜のソフトバンクとの3連戦初戦を落とし、2戦目も負ければ優勝争いで失速しかねなかった。その上、五輪前の最後の公式戦で田中将にとっては大事な登板だった。

ポイントはカーブだった。普段はあまり使わない球種でこの日も4球だった。だが3回2死二塁、初回に1発を浴びた柳田に2-1から投じた1球は効果的だった。試合で最初のカーブを果敢に打撃カウントで投げ、柳田は頭にもなかった反応で見逃しストライク。追い込むと149キロの外角高め直球で空を斬らせた。

今季は150キロ台が出ても球速ほどの体感ではなかった。だが意表を突いたカーブ後の直球は145キロ前後でも150キロに見せることができる。かつて得意球としていた桑田真澄さんや、決め球ではないにせよ川上憲伸も「カーブがある」と思わせるだけで打者にとっては邪魔な球種だった。 田中将は主要で使うカットボール、ツーシーム、スプリットと球速帯がほぼ同じで、打者にとっては対応しやすい。球速帯が違うカーブをもっと使えば、直球が生きてくる。4回も栗原に粘られたが、カーブを織り交ぜ、最後は高めのつり球で三振を奪えた。あまり使わないカーブを使って投球フォームを崩すタイプではないし、もっと割合を増やしていいと思う。

日本球界に復帰した前半戦は本調子とは言えなかった。それでも大崩れすることなく試合を作り続け、チームの分岐点になりえる一戦で勝ったのは、さすがだ。まだ32歳だが、プロでの年数を考えればベテランの経験値を誇る。実績、投球術からしても五輪でカギを握る選手になるし、稲葉監督もそこに期待して起用することになるだろう。(日刊スポーツ評論家)

5回裏を投げ終え笑顔を見せる田中将(撮影・屋方直哉)
5回裏を投げ終え笑顔を見せる田中将(撮影・屋方直哉)