ソフトバンク先発奥村を一見して、このチームらしからぬ投手だと感じた。直球は140キロ台中盤。腕を振っているが、球速ほどの体感はない。150キロ級がそろうソフトバンク投手陣の中では異質だ。初回、2番高部に右越えの1発、3番中村奨に左前打と続けて直球を捉えられた。「どうやって抑えていくのか」と思ったが、ここから持ち味を存分に発揮した。

担ぎ投げのようなフォームで真上から右腕を振り下ろす。カーブは縦に大きく割れ、フォークも落差があり、かつ130キロ後半とあまり速くない直球との球速差もない。このコンビネーションで2回から5回までは2安打に抑えた。

捕手としては、このタイプの投手と組む時は共同作業の重要性が増す。逆に捕手の考えを投球に反映させてくれるスタイルで、リードの面白みを感じさせてくれる投手だ。打ち気をそらして初球をカーブでストライクを取って、そこからどう展開していくか。わずかにタイミングを外して内野ゴロに打ち取ろう、など考えが膨らむ。

未勝利の30歳で2年ぶりの1軍マウンド、そしてプロ初先発。ラストチャンスにかける思いだったと想像できる。社会人時代は最速154キロだったが、プロ入り後に右肘を故障し、変化を強いられたのだろう。優勝争いの渦中で巡ってきたチャンスで5回1失点は次回につながる内容だった。

一方で攻撃陣はソフトバンクらしからぬ野球だった。5回無死一、三塁。甲斐の三ゴロで三走の正木が本塁へ走り、封殺された。どう見てもアウトになるタイミング。本塁送球されたら、わざと三本間で挟まれて、一走を三塁まで到達させる時間を稼ぎ、再び一、三塁の形を作り直す必要があった。次打者の時には、二走のガルビスがワンバウンド投球で三塁を狙い、アウトとなる判断ミス。ミスの連鎖で無得点に終わり、直後の6回に同点に追い付かれ、7回には勝ち越された。

流れが悪くなったのは結果論ではない。コロナ禍で主力を欠くが、スキの少ない野球は一昨年まで常勝だったソフトバンクらしさでもある。優勝へ“らしさ”を見せることが必要だ。(日刊スポーツ評論家)

ソフトバンク対ロッテ ソフトバンク先発の奥村(撮影・上田博志)
ソフトバンク対ロッテ ソフトバンク先発の奥村(撮影・上田博志)
ソフトバンク対ロッテ 5回裏ソフトバンク無死一、三塁、正木は甲斐の三ゴロで生還を狙うも憤死する。捕手は佐藤都(撮影・上田博志)
ソフトバンク対ロッテ 5回裏ソフトバンク無死一、三塁、正木は甲斐の三ゴロで生還を狙うも憤死する。捕手は佐藤都(撮影・上田博志)
ソフトバンク対ロッテ 5回裏ソフトバンク無死一、三塁、甲斐拓也は三ゴロに倒れる(撮影・和賀正仁)
ソフトバンク対ロッテ 5回裏ソフトバンク無死一、三塁、甲斐拓也は三ゴロに倒れる(撮影・和賀正仁)