村上も松井も、歴史に名を残す左のホームランバッターだ。時代も違い、どちらが優れていると語ることはできないし、そこに意味がない。

松井は引っ張り型だった。ポイントを前に置き、ホームランを思い起こしても完璧に右翼へ引っ張ったものが多い。スイングも速いが、それよりも遠心力を使った軌道でインパクトの強さを感じさせる振りだった。

遠心力を利かせる-。裏を返せば、きれいなインサイドアウトの軌道より、わずかに遠回りしてヘッドが出てくる。その分、内角に食い込むスライダー、カットボール、左腕のシュートのような変化球は、引っ張ろうとすればファウルになりやすい。だからカウントも稼げて、内角を意識させて落ちる球でも勝負できた。もちろんコントロールミスは許されない。だが抑えられるツボはあり、50本塁打を放った02年も私が在籍していた中日は本拠地の広さもあるが、リーグ最少タイの7本にとどめていた。

村上は対照的にポイントが近い。ギリギリまで球を見極められ、捉える点が体に近い分、球を最後まで押し込める。だから一見、振り遅れたような打球が左方向にも距離を生み、多方向に1発を量産できる。それを可能としているのは始動からフォロースルーまでのスイングの速さにある。

さらに4月下旬から、先端をくり抜いたバットに替えたことに気付いた。全体の重さは分からないが、先端は数十グラム、軽くなっているだろう。わずかな違いがヘッドスピードをさらに加速させ、感覚がフィットしたように思える。5月以降に本塁打ペースが上がってきた一因ではないか。

無双の村上をどうやって抑えるか。現役捕手に戻り、3連戦のスパンで考える。1戦目で印象づける攻め方ができるかがカギになる。打たれてもいいから偏った攻め方をする。足元を動かさせる、胸元をついてのけぞらす、バットを振らさないような球を投げ続ける。それが好調な打者の一番のストレスになる。

1打席目の反応を見て、勝負球になりそうな球を探る。「これで行く」と決めれば2打席目は徹底してその球を続ける。全球カーブ、全球フォークもあり得る。「カウントを整えて勝負球」というのは中途半端で危険だ。極端なことをしなければ抑える可能性が生まれない状態に、今の村上はある。

「どこまで同じ球種を続けるのだろう?」と思わせて、初めてチャンスが生まれる。村上が考え始めれば2、3戦目の攻め方に広がりが出てくる。逆にバッテリーが半信半疑で攻めていたらダメだ。「これで空振りを取る」「必ずゴロを打たす」と1球1球思い込んで、投げていくしかない。

それでも、このまま、ある程度、勝負してもらえる状況が続けば60本を打つ可能性は十分にある。松井も我慢強かったし、村上も選球眼が良く、四球を選ぶ姿勢を示している。警戒されても自分から突っかかって、打撃スタイルを崩すこともなさそうだ。どこまで数字を伸ばすか、歴史的な記録が見られるかもしれない。(日刊スポーツ評論家)

3回裏ヤクルト1死一、三塁、村上は50号本塁打となる右越え3点本塁打を放つ。投手大野雄(撮影・滝沢徹郎) 
3回裏ヤクルト1死一、三塁、村上は50号本塁打となる右越え3点本塁打を放つ。投手大野雄(撮影・滝沢徹郎)