村上宗隆は持っている男だ。

7回の第4打席。前の吉田が3ランを打っていなかったら交代だったはず。山川がベンチで代打の用意をしていた。そういう経緯があっても、最後にサヨナラの場面が回ってきて、実際に打った。3冠王とはチャンスで回ってくる、そういう星の下に生まれてきた男なのだ。5番には下がったが、最後に試合を決める1本を打てばいい。

復調気配はあった。準々決勝のイタリア戦から、センターから左中間方向へいい打球が出始めていた。村上のパワーがあれば、軽く打っても中堅手の頭を越えられると、改めて証明された。第4打席までは引っ張ろうとしていたが、センターを狙いながら内角に来れば引っ張ればいい。この日の1本で、決勝はもっと自然体でバッターボックスに立てると思う。

投手陣は、佐々木も山本も珍しく、連打で失点した。相当なプレッシャーの中で投げており、精神的な疲れが原因だろう。山本は普段、なかなか四球を出すような投手ではない。2人とも2巡目で捉えられたのは、メジャーリーガー特有の「目の良さ」がある。普通ならフォークで空振りが取れる場面でも、ファウルで粘られたり、見逃されたりする。落ちるボールも、1球見たら対応してくる。高いレベルを体感しながら、よく投げたと思う。

佐々木は真っすぐよりもフォークが多かった。メジャーは直球が101マイル(約163キロ)出ても対応してくる。直球はシュート回転する球が前回より多かった。シュート回転は大勢も含め他の投手にも多かったが、プレッシャーの中で投げていて、力が入ったのだろう。湿度の高いフロリダで、球が滑ったわけではない。「力むな」と言っても無理。湯浅も含めて4人の投手は、この重圧の中で投げられた経験が、財産になる。全員が若い投手で、今後1段階、上にいくきっかけになるはずだ。

決勝の米国戦は、一筋縄にはいかない。メキシコ打線とは比較にならないほどレベルが高い。先発の今永は自分のボールを信じて、思い切りいってほしい。メジャーの一流打者がそろうだけに、フォーシームも甘く入ればやられる。インサイドワークと絞られない配球を考えながら投げていくべきだ。力むなと無理だろうが、頭の中は冷静に。賢い今永だったら、それができる。最後はダルビッシュらも含め、総動員になるだろう。全員野球で頑張って欲しい。(日刊スポーツ評論家)

【関連記事】WBCニュース一覧

日本対メキシコ 9回裏日本無死一、二塁、村上の逆転2点適時二塁打で生還する一塁走者周東。手前は大谷(撮影・菅敏)
日本対メキシコ 9回裏日本無死一、二塁、村上の逆転2点適時二塁打で生還する一塁走者周東。手前は大谷(撮影・菅敏)
日本対メキシコ 9回、逆転の2点適時二塁打を放ち、佐々木(左)と山本(右)からスポーツドリンクを浴びせられる村上(撮影・菅敏)
日本対メキシコ 9回、逆転の2点適時二塁打を放ち、佐々木(左)と山本(右)からスポーツドリンクを浴びせられる村上(撮影・菅敏)
19日、米国対キューバ 6回裏米国1死一塁、適時二塁打を放つトラウト。投手アルバレス
19日、米国対キューバ 6回裏米国1死一塁、適時二塁打を放つトラウト。投手アルバレス
19日、米国対キューバ 1回裏米国1死二塁、逆転2点本塁打を放ち、トラウト(右端)らナインの出迎えを受けるゴールドシュミット(中央)
19日、米国対キューバ 1回裏米国1死二塁、逆転2点本塁打を放ち、トラウト(右端)らナインの出迎えを受けるゴールドシュミット(中央)