先日、九州新幹線の車内でこんな光景があったという。沈んだ表情をした90歳のおばあちゃんが娘とともに博多行きの列車に乗っていると、筑後船小屋から乗り込んで来たのは、右肘のリハビリ中のロベルト・スアレス投手だった。

 おばあちゃんはスアレスの大ファン。声を掛けると、博多駅で快く記念撮影に応じてくれ、おばあちゃんに久しぶりの笑顔が戻ったそうだ。

 実はこのおばあちゃん、昨年4月の熊本地震で被災し、61年近く住んでいた自宅が半壊。壊れた家の解体を見届け、福岡に住む娘の家に身を寄せるため、熊本に別れを告げ、福岡に向かっていたところだった。愛着のある自宅がなくなり、車内では暗い表情を浮かべていたが、偶然乗ってきたスアレスが、おばあちゃんの沈み切った心を救ったのだ。

 90歳と背番号90の縁が呼び起こした出会いだったのだろうか。スアレスも「元気になってくれてよかったね」と喜んだ。おばあちゃんもきっと、スアレスが来年戦列に復帰し、ヤフオクドームで応援できる日を心待ちにしているだろう。

 リハビリ中でもファンに喜びを与えることができる-。プロ野球選手という存在の大きさをあらためて感じさせられた、心温まる話だった。【ソフトバンク担当 福岡吉央】