何をやっても絵になる男はいる。

 6月18日のロッテ戦。私は出勤日だったが、4歳の息子が生まれて初めての野球観戦で東京ドームに足を踏み入れた。普段は無類の電車好きの「鉄ちゃん」。野球への興味は高くはない。基本的ルールも知らない。何回まで我慢して席に座っているだろうか。記者席からソワソワした心境だった。

 試合は初心者にも、分かりやすい展開だった。2回、4回と阿部が2打席連続本塁打。野球の華とも言えるホームランを見ることができたはず。聞けば6回まで観戦して、帰宅したという。亀井の涙のサヨナラ本塁打は見逃したが十分だったのではないか。

 家に帰り、感想を聞いた。「どうだった?」「面白かった」「誰がすごかった?」「阿部選手」。やはり1発に魅了されたか。「何がすごかったの?」「ホームランと…ボールを避けて、ひっくり返ったところ!」

 幼心に強く印象に残ったのは、6回の第3打席で内角高めのボールを避けた時に逆くの字のような形で崩れ落ちたシーンだった。残念ながら一連の動きで、右膝を負傷し、戦線離脱を余儀なくされた。勝手ではあるが、ケガをしたことを理解できていないのはご容赦いただきたい。大きな体が、想像もしない動きを見せたことが記憶に刻まれたのだろう。

 古くは長嶋茂雄は走攻守の活躍だけではなく、絵に描いたようなトンネルや、ヘルメットを飛ばしながらの豪快な空振りでファンを魅了した。何も格好いい姿だけが、ハートをつかむわけではない。

 阿部の幼少期のヒーローの1人は阪神の最強助っ人バースだった。「いつも打っているイメージしかない」。今でも動画で打撃フォームをチェックし、参考にすることもある。引退後も時折、来日するが、昨年も知人に頼んでイベントで写真を撮ってもらい、転送された画像を保存していた。アイドルはいつまでも色褪せることはない。

 息子の野球への興味が高まったかといえば、そう簡単な話でもない。だが1カ月経った今でも巨人の選手を聞かれると「阿部選手!」と声を張り上げる。愛する電車に並ぶアイドルになる可能性は秘めている。【巨人担当=広重竜太郎】