燕のドラフト1位左腕はその日、東京ドームのマウンドで輝いていた。ヤクルト寺島成輝投手(19)が8月24日、東京ドームで行われたイースタン・リーグの巨人戦に先発。3回を1安打無失点に抑えた。

 大歓声を浴びたことよりも投げられる喜びの方が強かった。平日木曜日のナイターに集まった1万5000人を超える観衆の前で思い切り腕を振った。対戦相手は重信やギャレット、橋本到、岡本と1軍経験のある面々。直球を軸に結果を残した。試合後、「1軍が使うグラウンドでピッチングできたというのは自分の中では大きいですね」と笑みを浮かべた。

 ドラフト1位左腕がようやく再スタートを切った。春季キャンプで左内転筋筋膜炎で離脱。4月29日のイースタン・リーグのDeNA戦で復帰登板として1イニングを投げるも、その後左肘痛を発症して、再び戦列を離れた。その後4カ月の調整を経て、8月13日のフューチャーズ・チャレンジマッチで実戦に復帰したばかりだった。この日は復帰後初の3イニングの投球。「全体的には良くなかった」と投球に関してはまだ本調子ではないと話すが、表情には充実感が漂った。

 昨年の自分と比べていた。高校野球、夏の甲子園のテレビ中継を見つめ、思いは複雑だった。「テレビを見ていると、去年はあれだけ投げられていたのになぁと思いますよ。しばらく投げることも出来なかった。でも焦ってもいけないし」。1年前に描いていた現在地とは違う。それでも一歩ずつ確実にリハビリをこなし、2軍での復帰へとたどり着いていた。

 だからこそ同年代の活躍が刺激となっている。楽天藤平の存在だ。昨年はドラフトの目玉候補として注目を集め、寺島とともに甲子園を熱くした。ライバルは8月22日に1軍で初勝利。1軍のスポットライトを浴びて輝きだした。寺島に焦りはないかと聞くと「一緒に頑張ろうと言っていた相手。(先に藤平が勝利し)悔しいというよりも自分も頑張ろうと思った」と答えた。悔しさではなく、藤平に追いつくための力に変えるという決意がにじんでいた。

 即戦力と期待された高卒左腕は苦しみながら、ゆっくりとプロの道を再び歩み始めた。「1軍に上がりたいという気持ちはつねに持っていますよ。でもそれを決めるのは監督とコーチ。今は与えられたところでしっかり投げるだけです」。来るべき日に備え、じっくりと力を蓄えている。【ヤクルト担当=島根純】