何とも心温まる演出だった。3月31日に札幌ドームで行われた日本ハム対西武。5回終了のグラウンド整備。この日でグラウンドキーパーを「引退」する工藤悦子さん(61)の最後の仕事姿が球場内のビジョンに映し出された。整備が終わると、工藤さんには栗山監督からは花束が手渡された。球場に詰めかけた4万1138人の観衆から大きな拍手が送られた。工藤さんには内緒にしていた企画だった。地上波のテレビ中継局も、この模様をフルカットで放映。通常ならば5回までの試合のハイライト映像を流すのだが、「引退セレモニー」に局側も協力した。16年間のキーパー人生だった。ビデオメッセージには田中、矢野の主力選手も登場。感謝の言葉を贈った。プロ野球興行はいろんな人の力で支えられている。

 25年前。福岡ドーム(現ヤフオクドーム)初の開幕セレモニー。暗転したグラウンドに高級リムジンがレッドカーペットを進んで、二塁ベース後方で止まった。車のドアが開き、ちょうネクタイにえんび服姿の3人の男がトンボを持って登場した。ドームのベテラングラウンドキーパーさんだった。「いやあ、こんな格好は生まれて初めて。恥ずかしくって」。照れ笑いと苦笑いを浮かべたキーパーさんは、黙々とグラウンドを整備した。ドーム運営会社の社長でもあった中内正オーナー代行の発案だった。「野球を支えている人をリスペクトしたい」。ダイエー時代、キーパーさんの制服はちょうネクタイだった。

 春は別れと出会いの季節。工藤さんは「ますます人と出会うのが好きになりました」と、メールを送ってくれた。【ソフトバンク担当 佐竹英治】