見慣れない、でも興味深い光景が広がっていた。11日、ヤクルトが愛媛・松山で1日から行っている秋季キャンプで「8人対8人」の紅白戦が実施された。この時期の紅白戦は、人数が足りなければ裏方スタッフらが加わって9人にそろえるのが通例。だが、あえて1人不足したままで対戦させる形式をとった。

今秋キャンプのテーマは「考える」。小川淳司監督は「ただ言われた通りに野球をしているのではダメ。限界があると思う。もっと考えて、感じて、プレーするのが大事」と、頭を働かせる重要性を説く。「野手が1人足らない中で、相手に勝つためにどうするか。守備位置、作戦、すべて選手に考えてもらう。全員で内野を守ってもいい」。西浦と塩見を両軍監督に据え、選手の振り分けから作戦、守備位置や守備シフトも選手に一任。首脳陣は口を挟まず、捕手後方のネット越しに観戦していた。

序盤こそ右中間と左中間に1人ずつの外野2人制を採用していたが、徐々に思考の片りんが見え始めた。ベンチからは「次の守備、どうする?」など、選手同士の活発な会話が聞こえてきた。打者と投手の力関係や特長から判断し、内野手を1人減らして外野3人にしたり、絶対にゴロを打たせると決めた場面では内野を5人にするなど、攻撃陣にも考えさせながら1つのアウトを積極的に奪いにいこうとする姿勢は見えた。

発案者の宮本ヘッドコーチは「俺だったらどうするかなと思いながら見ていました。これ(守備シフト)に関しては野球観の違いなので、正解はないですからね」と前置きしたうえで「盗塁であったりエンドランをしてもいい場面で、何も仕掛けられていなかった。(作戦を実行しやすい)カウントを作るとか、もう少しやってほしかったですね」と期待を込めて注文をつけた。全員が頭も汗をかき、「1点を防ぐ」のはもちろん、「1点を奪う」ことにも目を向ければ、勝機はグッと上がるはずだ。

今季のヤクルトは「1球への執念」を思考の柱に据え、昨季96敗から2位へと大躍進を決めた。来季にチームが目指すのは「1つ上の順位=優勝」しかない。目標達成のために「勝つために考える野球」をさらに追求しはじめた。「執念」+「頭脳」=19年度版ヤクルト野球。この方程式が成立した先に、4年ぶりの優勝が待っている。【ヤクルト担当 浜本卓也】