引退会見を行うマリナーズのイチロー氏(2019年3月21日撮影)
引退会見を行うマリナーズのイチロー氏(2019年3月21日撮影)

広島菊池涼介が、尊敬するイチロー氏の考えについて「ちょっと違うと思うんですよね」と言う部分がある。3月の引退会見で、野球の魅力について語った以下の部分だ。「団体競技なんですけど個人競技なんですよ。個人としても結果を残さないと生きていくことはできない。本来はチームとして勝っていけばチームのクオリティーは高い。でも決してそうではない」。これに対し「みんなで勝つのが野球だと思うんです」と異を唱える。

断っておくが、菊池涼はイチロー氏が好きだ。少年時代、初めて買ってもらったバットはイチローモデルだった。イチロー氏にあこがれて野球を始めた世代。プレーにも、立ち居振る舞いにも敬意を払っている。もちろん、84分間の引退会見はすべて見た。感動した。発言の趣旨を考え抜いた上で、疑問を持ったということだ。

今年1月の自主トレを取材した際に話していたことを思い出した。チームの今季について「『家族』になったチームが『一丸』に戻らないようにしないと」と、独特の表現で警鐘を鳴らしていた。家族のように一心同体になったチームを「一丸」という平凡な結束に戻してはいけない、自分のことしか考えない人間の集まりにしてはいけないという意味だ。黒田博樹氏、新井貴浩氏から引き継いだ信念なのだろう。

4月9日ヤクルト戦。先発ジョンソンが初回に3失点したその裏1死走者なしの打席。三遊間への当たりを放った菊池涼は、一塁へ頭から滑り込み、内野安打をもぎ取った。あきらめない。あきらめるな。肩に力を入れないふだんの姿とは正反対の、熱い思いが見えた。自己犠牲を強いられる進塁打にも100%の集中力で取り組む。派手な守備に焦点が当たるが、平凡なゴロほど愚直に足を使い、丁寧に処理する。チームプレーが体に染みついている。

波に乗れないチームにあって、チームリーダーのこの姿は貴重だ。菊池涼が自らの野球観を体現する限り、巻き返しは可能とみている。【広島担当 村野森】

菊池涼介は一塁へのヘッドスライディングで遊内野安打をもぎ取る(2019年4月9日撮影)
菊池涼介は一塁へのヘッドスライディングで遊内野安打をもぎ取る(2019年4月9日撮影)