ロッテ担当を拝命し、もうすぐ1カ月になる。毎日のように名刺が減る。

練習の合間に「今なら大丈夫かな」と判断し、名刺を渡す。なかなかタイミングが合わない選手もいる。それなのに2度、3度と笑顔であいさつを交わしてくれた選手がいた。

春季キャンプに備えて先乗りした石垣島でようやく名刺を渡せたその選手は、山本大貴投手(24)。プロ3年目の左腕だ。昨季は1軍登板機会がなかったが、オフには米領プエルトリコでのウインターリーグに安田尚憲内野手(20)らとともに参加するなど、球団からの期待の高さがうかがえる。

そんな山本がエメラルドグリーンのグラブを持っていた。日本ではなかなか見慣れない色だ。練習からの帰り際に「珍しい色だね」と話しかける。話すのは2度目の、えたいの知れない記者。「そうですね」とサラッと流されても仕方ないかなと思っていた。

でも、名刺さえなかなか渡してこない相手に3度も会釈した好青年は「これですか? 実はプエルトリコでもらったグラブなんですよ」と、笑顔で自ら切り出してくれた。

聞くと、ウインターリーグが始まって間もなくのころ、チームメートの左腕が山本の赤いグラブにひと目ぼれしたのだという。「向こうでは赤いグラブが変わってるみたいで」。本気でねだられたために譲って、代わりに彼が使っていたエメラルドグラブをもらったのだという。

メーカーは「44」という米国のブランド。「日本のとは、ほんの少し素材が違うような気がします」という。プエルトリコの国旗がホームベース型にデザインされ、「GOD AND FAMILY」という刺しゅうも入っていた。山本はこれを今、練習用グラブとして使う。

40日以上に及ぶ武者修行から帰国し、1カ月が過ぎて、今なお色濃く残っているものは何だろう。

「とにかく、プエルトリコの選手たちは切り替えが早かったです。いいときはノリノリ。悪いときは本当にすぐ気持ちを切り替える。悪影響の雰囲気が漂うっていうシーンが全くなかったと思います」。

昨年までの山本の表情は知らないが、異国での多様な経験もきっと、24歳の可能性をぐっと引き延ばしたのだろう。私への3度の会釈にも、そんな背景があったのかもしれない。

今後の方向性も決まっていくであろう、勝負のプロ3年目。ブルペンで投じる低めの球の強さには、光るものを感じる。あとは打者にどう立ち会っていくか。エメラルドグラブがきっと、学びの日々を思い出させてくれる。【金子真仁】