23日広島戦、7回途中4失点で降板する阪神藤浪(左)
23日広島戦、7回途中4失点で降板する阪神藤浪(左)

拍手にも「質」がある。興奮。感動。同情。皮肉。今回のそれを表現するなら、納得とエールの拍手といったところか。7月23日の甲子園広島戦。藤浪に降り注いだ拍手はちょっとジーンとしてしまうほど、温かなモノだった。

357日ぶりの1軍登板。立ち上がりは踏ん張り、中盤は安定し、無失点のまま2点リードで6回へ。663日ぶり勝利投手の権利を手にした直後、2者連続四球から6番ピレラに逆転満塁弾を浴びた。7回途中4失点で降板。マウンドに到着した2番手望月に声をかけた後、悔しそうに一塁ベンチに走りだした。すると、どこからともなく大きな拍手が沸き起こった。

阪神ファンだけではない。三塁側の内野席、左翼席の広島ファンも手をたたいていた。観客4947人全員が拍手しているのではと錯覚してしまうほど、力強い拍手音。あれから4日後の27日、藤浪は1軍復帰戦を振り返り「応援していただけることがすごく励みになりました」と感謝した。

当たり前の話だが、観客はお金を払ってチケットを手にする。この1試合が1年で1度きり、いや一生で1度きりの甲子園観戦となる人もいたかもしれない。このゲームに懸ける情熱が人一倍強かっただろう観客が藤浪の復帰戦をどうジャッジするのか、記者席から気になっていた。結果は鳴りやまない拍手。いいモノを見られたという納得、次回登板へのエールが込められていたように感じた。

制球難に苦しんで昨季は0勝。今年は3月下旬に新型コロナウイルスに感染し、5月下旬には練習遅刻による2軍降格も経験した。厳しい指摘も全身で受け止めて臨んだ復帰マウンド。どれだけの野球ファンが復活を待ち望んでくれているのか、誰よりも本人があらためて気付いたことだろう。

次戦は30日の敵地ヤクルト戦。きっとまた、大声を出せない観客たちは汗を流しながら、両手を真っ赤に腫らしながら、拍手を続けてくれる。それになんとか応えようと藤浪は腕を振る。何かとつらいニュースに心が痛みがちな毎日だから、野球場で感じられる「ぬくもり」が余計に身に染みる。【遊軍=佐井陽介】

23日広島戦、降板する藤浪にあたたかい拍手を送るファン
23日広島戦、降板する藤浪にあたたかい拍手を送るファン