ヤンキースFAの田中将大投手(32)が、楽天に復帰することが決まった。28日にも発表される。

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ヤンキースで7年間も先発ローテを守り抜いたマー君が、32歳というピークで楽天に戻ってくる。日本球界にとってこの上ないことが起こったことになる。

5年前の盛夏に田中を取材した。久しぶりの第一声は「特殊なところでやってます」。トレードの期限が迫り、ロッカールーム内のテレビでは各チームの動静が生中継されていた。

チャプマンにベルトラン。立て続けに主力の移籍が決まり、人いきれに包まれていた。「日本では考えられないこと。文化の違いですね。いろいろ、思うところはありますよ」と言った。メジャーリーグは純然たる力関係で序列が決まり、エースや主砲にはロッカーが2個、与えられる。編成にフィットしなくなれば、実績に関係なく居場所はなくなる。

世界中のプロスポーツのチームにあって、特にヤンキースには情を排したシビアで分かりやすい環境があり、田中は主であり続けた。整理整頓された2個のロッカーを背に、黙々と対戦相手のチャートを分析したり、グラブを磨いたりしていた。松井秀喜、黒田博樹。ピンストライプで認められた日本人に共通する「腕一本で」の空気をまとっていた。

無敗でシーズンを投げ抜き、東北に希望を運び、海を渡った。メジャー3年目の当時、NPBには若き強打者が次々と台頭した。古巣はAクラス争いの真っ最中。「楽天、どうですか。筒香、山田。すごい成績ですねぇ。どうやってあんな…対戦したこと、ないんです。そりゃあ、やってみたいですよ」。

メジャーで投げる意味は。「結果を求めないといけないけど、結果とは少し違うところでプレーする自分もいる。こっちでやっている方は、みなさんそうだと思うんです。投球には幅がある。まだ、したことがないピッチングをする時があるかも知れない。そんな感じですね」。

まだ、マー君って呼んでいいのかな。「全然…マー君でいいですよ。確かにそう呼ぶ方、少なくなってきましたけど」。

7年の孤高には、歳月以上の重みがある。見果てぬ望郷の念。磨き上げてきた己の還元。東日本大震災から10年。新型コロナウイルスの感染拡大や金銭の条件なんかより、はるかに深い理由が「マー君 楽天」という甘美な響きの背景に横たわっている。

ピークでの復帰という決断は「日本では考えられないこと」かも知れない。ただその選択は、針の先に身を置いて大局観を備えたマー君にとっては、必然だったのかも知れない。ありがとう。【宮下敬至】


◆宮下敬至(みやした・たかし)99年入社。04年の秋から野球部。担当歴は横浜(現DeNA)-巨人-楽天-巨人。16年から遊軍、現在はデスク。

背番号18を指さす楽天時代の田中将大(2011年10月8日撮影)
背番号18を指さす楽天時代の田中将大(2011年10月8日撮影)