現実は残酷だ。巨人エリック・テームズ外野手(34)がデビュー戦で右アキレス腱(けん)断裂の大けがを負ったシーンを見て思った。

4月27日ヤクルト戦の3回、左翼の守備で打球処理の際に痛め、その場に倒れ込んだ。もん絶して動けず、担架で運ばれた。期待値の高さに対してデビュー戦でいきなりの大けが。そのインパクトから、SNS上で話題を呼び、ツイッターのトレンド入りした。

異国でのスタートをようやく切ったばかりだった。新型コロナウイルスの影響で来日が3月末まで遅れた。2週間の隔離期間を終え、4月13日にようやく始動した。取材をして感じた印象は、いつも明るくナイスガイだった。2軍のウオーミングアップの際には、ウィーラーに教わりながら日本語で「アップ、イキマース!」と声出しを担当したときもあった。どちらかといえばクールなスモークに対し、社交的な性格だった。入団会見でも「異なる環境に順応するのが得意。日本流のことにもそういう姿勢で取り組んで対応していきたい」と話したように、懸命にチームになじもうとしているようにうつった。一刻も早く復帰するために、すぐに米国に帰国して手術することを決断。負傷した翌日にはその旨を「ちゃんと直接報告をしたい」と、松葉づえをつきながら試合前練習に姿を見せた。原監督をはじめ、首脳陣やチームメートにあいさつをして回った。

練習態度もマジメそのものだった。ジャイアンツ球場での2軍戦開始20分前、テームズは2軍の若手選手数人とともに、室内練習場にいた。驚いたのは若手がマシン打撃でバンバン打ち込む中、1人だけ打たない。バッターボックスで念入りにスイングの軌道やステップを確認しながら素振りを重ねた。ピリッとした緊張感が張り詰める室内に、重いスイング音が鳴り響く。回数も、時間も多くなかったが額に噴き出した粒状の汗が真剣さを物語っていた。

打撃での結果は言うまでもない。9試合に出場した2軍戦で打率5割、4本塁打、15打点、出塁率6割4分5厘、OPSは1・782と圧倒的な数字を残していた。鎌ケ谷スタジアム通算2500号記念本塁打を放ち、ジンギスカン100人前をゲットするオマケもついた。期待の高さゆえにファンの落胆も理解できる。ただ当然、誰よりも悔しいのは本人だろう。韓国で“神”と呼ばれた男だ。ケガを治して来季、巨人のユニホームで元気にプレーしている姿を見たい。そして巨人の“神”と呼ばれるような活躍を期待したい。【巨人担当=小早川宗一郎】