緑が広がる広島2軍が本拠地とする山口県岩国市の由宇練習場で、会沢翼が若手に交じって汗を流していた。8月19日に実戦復帰。1イニングのみの出場を経て、27日ウエスタン・リーグ中日戦は7回までプレーした。2軍関係者はこう会沢効果を口にした。

「捕手1人であれだけチームが変わるのかと驚きました。会沢の存在感やテンポの良さもあるでしょうけど、守備全体がいい意味でピリッとなった。まさに扇の要だなと思いました」

思わぬアクシデントで東京五輪野球日本代表を辞退した。下半身のコンディション不良から復帰したばかりの6月15日西武戦、8回の守備で左足を痛め「左下腿(かたい)腓腹筋挫傷」と診断された。これまで何度もケガを負ってきたとはいえ、今回の精神的ダメージは計り知れない。取材規制されたリハビリ中の表情からも感じた。

あれから約2カ月、いろいろなものを乗り越え、グラウンドに立った。10歳も年が離れた選手もいる2軍では優しい表情が印象的だった。ギラギラした20代半ばの頃と比べれば、角が取れて丸くなったようにも映る。ただ、心は一本筋が通った“漢”のままだ。「(自分が)試合に出る、出ないというよりも、助けてあげられることがあるんじゃないかなと思う。今、試合に出られている選手も、出て当たり前じゃない。出られていない選手もいる。そこに感じることがある」。最下位に低迷するチームを応援することしかできなかった。それでも、チームのために自分ができることを常に考え、ともに戦っていた。

首位阪神だけでなく、クライマックス・シリーズ出場圏内の3位ヤクルトの背中も遠い。目標を見いだしづらいシーズン終盤、チーム内の雰囲気は決していいとは言えない。それでも示さなければいけない姿がある。「負けているときも、選手もピリピリしておかないと。ロッカールームがピリピリしているくらいじゃないといけないと思う」。残り試合の戦い方で、チームの未来は変わる-。それを伝えられる選手は、そういない。【広島担当=前原淳】