年が明けて、西武の2軍本拠地「CAR3219フィールド」では、プロの扉をたたいた新人たちが練習に励む。寒空の下、初々しく、希望をあふれた表情で汗を流す。

そこではルーキーたちとは、別のグループも体を動かしている。心なしか背水の思いが宿っているようにも映る。記者は昨秋に野球部に異動となり、1月から西武担当に。失礼ながら、その集団が最初は誰か分からず、詳しい人に聞いてみると、若獅子寮に暮らす育成選手たちだった。

「よっしゃ」「オッケー」。その中でひときわ、大きな声を発し、元気に練習をしている選手がいた。とにかく明るく、楽しそう。何でもハイテンションにこなしていた。 宮本ジョセフ拳外野手(22)だった。20年ドラフトで育成3位指名され、名古屋学院大から入団。登録名は「ジョセフ」で、ガーナ人の父、日本人の母を持つ。

思わず、尋ねてみた。「なぜ、そんなに明るく元気なのか?」。少し「ええ~」と考えてから、こんな答えが返ってきた。 「元気出そうって思っているわけじゃないんですけどね。楽しんでやるんだったら、声を出した方が楽しいしですし、自分のモチベーションも上がってくる。あと今日も楽しかったなと、自分の中でも満足感も高いですよね」。

もともとの性格もあるが、声を出していくプレースタイルの源流は、豊川高(愛知)の時にあるという。当時の部長兼コーチである青山弘和さん(現金沢龍谷高監督)から「声は大事」とよく言われた。「多分、そこからですよね」と回想する。 昨年12月には、たまたま読んだ漫画の言葉も「確かに」と印象に残った。「やる気と声は比例する」。何の漫画かは「思い出せない」そうだが、貫いていた信条は正しかったと思えた。

グローブも目を引く。日本とガーナの国旗の刺しゅうをあしらっている。大学時代、海外にもルーツを持った先輩がグローブに2つの国旗を刻んでいたという。プロ入りしてから、自分も同じように刺しゅうを入れた。「自分の中には日本とガーナの2つの国がある。そこを知ってもらえたらいい」。まだガーナに行った事はないが、1万3000キロ以上離れた国への思いも持って白球を追う。

遠投は110メートル、足は50メートル5秒9で身体能力は高い。ただ、1年目は技術が未熟で苦労をした。ファームでは38試合出場で、55打数11安打。盗塁も0で、逆に2回刺された。

「プロの世界。どれだけ長く野球をやれるかは分からない。去年は結果を出さないというプレッシャーも感じすぎていた面もあった。今年は勝負の年になりますが、より気負わず、難しくなりすぎず、リラックスして楽しむ。結果も出して、楽しい1年にしたい」。 厳しき世界で、危機感も持っているからこそ「楽しむ心」を大切にしている。もちろん、声や明るさだけでは生き残れない。ただ、そうすることは、ジョセフにとって、自分の力を最大限に引き出せるやり方でもある。【西武担当=上田悠太】