最後の年となった阪神矢野燿大監督は、「オレ流有終V」に続くことができるか-。公式戦の全日程終了前に退任が明らかになった監督がリーグ優勝を飾れば、11年の中日落合博満監督以来、球界11年ぶりとなる。
矢野監督は1月31日、今季限りで辞任する意向を明かした。阪神ナインは、文字通り退路を断った監督をVで送り出したいところだ。成績不振による引責辞任や契約満了が多い監督業において、優勝しての勇退となれば珍しいと思われる。ところが意外なことに、2リーグ分立後11人もの監督が、リーグ制覇を花道にその職を辞している。
50年 小西得郎(松竹)
54年 天知俊一(中日)
60年 西本幸雄(大毎)
78年 上田利治(阪急)
83年 藤田元司(巨人)
85年 広岡達朗(西武)
94年 森 祇晶(西武)
03年 星野仙一(阪神)
07年 ヒルマン(日本ハム)
11年 落合博満(中日)
14年 秋山幸二(ソフトバンク)
注目すべきは、11年の中日落合監督の例である。優勝監督の退任は、公式戦終了後に明らかとなるケースがほとんどだ。ところが落合監督の場合は同年9月22日、ナゴヤドームでの首位ヤクルトとの直接対決試合前のことだった。午後3時に球団首脳が、3年契約の任期満了による退任を発表。併せて球団OB高木守道氏の監督復帰も明らかにした。
この時点で中日は2位ながら、ヤクルトから4・5差もつけられていた。中日は残り26試合で、ヤクルト25試合。逆転優勝は極めて困難な状況だったが、中日はここから16勝7敗3分けの勝率6割9分6厘というハイペースで勝ち進む。とりわけヤクルト戦では8勝1敗と圧倒し、最後は2・5差をつけてうっちゃった。8月3日にあった最大10差をひっくり返しての、大逆転Vだった。意表を突く選手起用や大胆なコンバート、そして緻密な采配に導かれた選手たちが、名将に報いようと戦った結果だった。
公式戦も佳境に入った9月下旬と、キャンプイン前日。時期には大きな違いがある。とはいえ「退任が公になった監督」に率いられるという一点で、11年終盤の中日と今季の阪神は共通している。矢野監督のもと阪神は、過去3年間すべてでAクラスを守り、佐藤輝や中野ら戦力もそろってきた。個々の能力に「恩返し」というモチベーションを加えれば、去りゆく指揮官に優勝をプレゼントできるはずだ。【記録室 高野勲】