大記録達成はならなかったが、記憶に残る1球となった。

オリックスのドラフト1位椋木蓮投手(22)が、20日の日本ハム戦(京セラドーム大阪)で、9回2死2ストライクまで無安打無得点に封じた。最後は代打の佐藤に116球目カットボールをセンターに運ばれ、プロ2戦目でのノーヒットノーラン達成はならなかった。

偉業達成の可能性があった、あの1球-。周囲は、どう見たのか。

6月18日西武戦(ベルーナ)でプロ野球史上86人目(通算97度目)のノーヒットノーランを達成した、エースの山本由伸投手(23)に聞いた。先発登板日でないため、映像で試合を見ていたと言い「雰囲気ありましたよね。もう、ノーノーをやるもんだと思って(画面を)見てました」と振り返る。

ヒットが生まれた瞬間には「まさか!って感じで力が抜けましたね」。自身のノーヒットノーランは「最後の打者ですか? 絶対、打たれないように。『丁寧に』だけを考えてましたね」。一ゴロに仕留め、守備固めで一塁に入った山足からトスを受けた。27個目のアウトを奪い「ホッとしましたね…」と表情を崩した。悔しい1球にしないため、最後まで集中を研ぎ澄ませた経験を思い返した。

椋木の「あの1球」を凝視できなかった投手もいる。守護神の平野佳寿投手(38)だ。ブルペンで唯一、投球練習を行い、出番に備えた。救援陣の証言によれば「平野さん以外は全員『達成するだろうな』と思って、ペットボトルの水を持ってベンチ裏に並んでました」と、仲間を祝福するために整列していた。

ただ、メジャーを知るベテラン右腕だけは違った。淡々と肩を作った。1球1球、ブルペン捕手のミットにズバンと投げる度に、試合映像で新人椋木の様子を確認する。「もちろん、平野さんは出番の準備していたんですけど、その足元に祝福用の水(ペットボトル)を置いて、肩を作っていました」。一緒に快挙を祝いたい-。そんな思いだったが、ヒットが生まれてしまった。「みんな一斉にブルペンに戻ったら、スイッチを入れた平野さんがマウンドに向かいました」。椋木の白星を守るため、闘争心を込めた。

最後のアウトを奪うと、ウイニングボールをルーキーに手渡し、肩を抱いた。記録が達成されなかったからこそ生まれた、熱い抱擁だった。

椋木本人は「正直、自分も限界だったので、あそこで代えてくれてよかった。勝つことが大事なので」。試合後のお風呂場でバッタリ会った守護神には「すみません、あんな形で…」と謝った。平野佳からは「いやいや。ナイスピッチよ!」と言葉をもらった。 衝撃を生んだ「あの1球」は、まだまだ語り継がれる。【オリックス担当=真柴健】

オリックス対日本ハム 試合を締めたオリックス平野佳は捕手若月とタッチを交わす(撮影・上山淳一)
オリックス対日本ハム 試合を締めたオリックス平野佳は捕手若月とタッチを交わす(撮影・上山淳一)