十数年ぶりにオリックスのキャンプ取材の機会に恵まれた。宮崎・清武に移ってからは初めて。宮古島に比べてファンの数が段違いに多く、人気選手もずいぶんと増えた。

そんなV2集団の中で、ドラフト2位、内藤鵬内野手(18=日本航空石川)が存在感を放っていた。ドキドキのはずの1軍実戦に抜てきされてもワクワク感が全身からあふれ出る。「野球が楽しいです」と笑う高卒ルーキーに、報道陣もなごませてもらった。

今キャンプ序盤、こちらが名乗ると「初めまして」と丁寧に返してくれた。「実は2回目なんだよね。あのとき…」と明かすと「あ、トイレですよね!」とすぐに気付いてくれた。

昨秋のドラフト会議。阪神が高評価していたこともあり、大阪本社から能登半島に派遣された私は、内藤や大勢のメディアとともに校内の一室で指名を待っていた。上位指名は確実とされ、内藤は「1位もあるぞ」と関係者に耳打ちまでされていた。結果は2位。指名順の遅いオリックスだったので全体23番目だった。

本当に長く感じた。会場には微妙な空気が流れ、私もつらかった。1位12人の交渉権が確定すると、ブレークタイムがある。私は1人、行きたくもないトイレに立った。同じフロアのトイレで小用を足していると、すぐ隣に詰め襟の大男が現れた。ほかには誰もいない。「きっと2位だよ」「本当に呼ばれるんですかね…」。ポジティブな性格と聞いていた18歳の切羽詰まった様子に、気の利いた言葉が思いつかなかった。

席に座り直し、10分か20分か。ようやく名前を呼ばれた。彼は汗びっしょりだった。会場全体が祝福ムード。あのとき共有したであろう安堵(あんど)と内藤の笑顔は忘れられない。

縁あっての宮崎キャンプ取材。今回の取材も、わけあってトイレの前で待たせてもらった。「またトイレでしたね。次もトイレで会いましょう」と内藤は笑った。プロのキャンプは楽しくて仕方ないらしい。右打席で醸し出す大物感は中田翔や岡本和真の入団時を思わせるものがある。近い将来、京セラドーム大阪で、記者がちびるほどの放物線を描いてほしい。【遊軍 柏原誠】

22年10月、オリックスから2位指名を受け、笑顔を見せる日本航空石川・内藤鵬
22年10月、オリックスから2位指名を受け、笑顔を見せる日本航空石川・内藤鵬