グッズショップのレジにヤクルトの投手キャプテンは立っていた。沖縄・浦添キャンプのあるオープン戦開始前。田口麗斗投手(27)は店員に交じり会計作業を手伝いつつ、サインや写真撮影に1人ひとり応じていた。記者が試合開始ギリギリまで確認した限りでも、1時間30分以上は店頭に立ち続けた。

「時間は関係ないですよ。みんなが、なかなかやれないことを(自分は)やらないとという感じです」。時にはドラフト1位右腕の吉村貢司郎投手(25=東芝)を連れて行き、同じようにファンサービスを行った。

プロ野球選手のかたわらジム経営やYouTubeチャンネルを開設するなど多角的な視点を持つからだろうか。投手キャプテンに就任した今季、キャンプで新たな取り組みを実施した。毎日のキャッチボール相手をくじ引きで決めるというもの。これまでは同じ人同士で行うことが多かったが、普段と違う投手の球筋を見ることで相乗効果を期待した。

田口 たとえば、左投手同士、先発同士がキャッチボールをすれば勉強にもなるし、競争意識にもつながる。とにかく強い投手陣をつくりたい。

若手に「あの選手をお手本にしなさい」などと「言うは易し」で終わるのではなく「くじ引き」という新たな施策を実行に移し、組織を流動させた。選手間のコミュニケーション量は格段に増えただろうし、そうすることで各選手の「気づき」が生まれるきっかけにもなっただろう。

「現実的に石川さん、小川さん、石山さん、清水を除いて、うちのピッチャー陣に年間を通して成績を挙げた選手があまりいない。みんなレベルアップしないといけないし、見ていて今投げてるボールに満足している子もまだまだいます」と話す。

冒頭のシーン。プロ野球選手がグッズショップの店頭に立つことで普段得られない「気づき」が出てくるかもしれない。若手投手陣にとって「くじ引き」に秘められた意図をどうくみ取るかも、成長の鍵となりそうだ。【ヤクルト=三須一紀】