「ファンサ」っていいものだ。ファンサとはファンサービス、ファンへの対応のこと。3月に横須賀スタジアムに行った際、取材はとっくに終わっていたのだが、出待ちのファンの皆さまに紛れて球場出入り口を眺めていた。

選手はこっちに来ないこともできる。ファンが求めれば寄ってきてくれる、という感じだった。1時間ほど立っていた中で、DeNA入江大生投手(24)の対応が他を圧倒していた。

名前を呼ばれると、明るい表情でぐいぐい歩み寄ってくる。学生の女の子には「ちゃんと認知してるよ」「昨日も来てくれたの?」と会話を膨らませ、横で年配の男性がスマホのインカメを起動したのを見るや、自ら顔を近づけて瞬発力抜群の笑顔をつくった。

無駄がない。短時間ながら、流れるようにその場の全員を幸せにして去って行った。ちなみに「認知」とは、あなたの顔や名前をきちんと覚えているよ、の意味。ファンには認知を喜ぶ人と、個体認識されず「ワン・オブ・ゼム」でひっそり応援したい人がいる。入江が覚えているよと言った学生さんは、ついてきてくれた友達に感謝を述べて、とてもうれしそうだった。

思えば16年の夏。甲子園で入江と今井(現西武)がいる作新学院の担当をしていた。入江は木更津総合・早川(現楽天)らから3試合連続本塁打の活躍。たくさん原稿を書くので、試合前や練習日によく話を聞きに行った。

そのたびに、具体的なおもしろネタがわんさか出てきた。記者用語? で言うところの「エピをくれる選手」だった。単純にトークが楽しい。もしかしたらあれも、「ファンサ」ならぬ「記者サ」として、土産話を持たせようという入江のサービス精神だったのかもしれない。

横須賀からの帰り際、弊紙読者の方から声をかけられた。5年も前に書いたコラムについて「感動しました」と言ってくださった。自分なりの精いっぱいの反応をしたつもりだが、多分挙動不審だった。「あー、もっと気の利いたこと言えたんじゃないだろうか」と考える道中、入江のすごさが身に染みた。【遊軍 鎌田良美】

16年夏の甲子園準々決勝の木更津総合戦で作新学院・準々決勝は3試合連続の本塁打を放つ
16年夏の甲子園準々決勝の木更津総合戦で作新学院・準々決勝は3試合連続の本塁打を放つ