いつも笑顔の広島ケムナ誠投手(27)が今年、マウンドで笑わなくなった。三振を奪っても、3アウトを取っても、どこか怒りをにじませながらマウンドを降りていく。

根っからの明るさで、自ら報道陣に歩み寄って話しかけ、あいさつ時は常に笑顔がついてくる。たとえ打たれても前向きさを忘れない姿勢がある。昨季まではマウンド上での表情豊かだったように映っていた。だが、今年はマウンドでは厳しい仮面をかぶったままだ。

きっかけは、オープン戦期間中にあった。昨季43試合で4勝14ホールド、防御率3・20。昨秋キャンプでは、新井監督から直接指導も受けるなど、ケムナは勝ちパターン入りが期待されていた。だが、実戦に入った2月下旬から失点する登板が目立った。自分自身への怒りが、笑顔を消した。

「何をやっているんだって。何とか結果で示したかった」

開幕1軍入りも、ビハインドの状況や複数回を任せられる役割となった。今季初登板となった3月31日のヤクルト戦で失点を喫したものの、その後は7試合連続無失点。15、16日ヤクルト戦、20日阪神戦と登板3試合続けて、好投がチームの逆転を呼び込んだ。マウンドで笑わぬ右腕が、チームに笑顔をもたらした。

投球の変化もある。真っすぐにスライダー、フォーク、そして縦に割れる特徴あるカーブも武器だ。だが昨季、カーブは追い込んでからでないと機能しない球種だった。カウント球で使おうとしても6割近くがボール球。投手有利のカウント以外では思い切り腕を振れていなかった。武器として機能していないだけでなく、ボールが先行する球種となっていた。今年はカーブがカウント球としても使えるようになり、ほかの球種が生きるようになった。マウンド上での気持ちの変化は、投球の良化にもつながっている。

登板が終われば、いつもの笑顔いっぱいのケムナに戻る。ここまで11試合登板で1勝1ホールド、防御率1・38、奪三振率10・38。チームに大きな笑顔をもたらすため、今年はマウンドで笑わない。【広島担当=前原淳】