全国の美味を南から挙げている。前回は「富山・イカの塩辛」で終わった。

◆東京・八丈島のクサヤ

においは滋賀の鮒すしに匹敵するが、これも食べているうちにクセになる。

◆群馬・谷川岳のコゴミ

ポン酢で食べる。苦みと歯ごたえ。山菜は大地の力を吸い込んでいる。

◆茨城のあんこう鍋と宮城のホヤ

見た目は毒々しいが、食べれば珍品で、後を引く。ナマコやウツボもしかりで、グロテスクなこれらを最初に食べた人に、ぜひとも話を聞いてみたい。想像もつかないが、素晴らしい感性をしている。一体どんな人なのだろう。

◆北海道の行者ニンニク

おいしい食べ物が多すぎて目立たないが。行者ニンニクのしょうゆ漬けは珍味の中の珍味だ。

半世紀近くのプロ野球生活で出会った「感動した味」をランク付けすると<1>富山の塩辛<2>滋賀の鮒すし<3>青唐辛子を刻み込んだしょうゆにつけて食べる、長崎のアジのたたき、となる。これといった趣味のない自分にとって、美味を追いかけるのは、体の動く限り続きそうだ。試合のない地域の食べ物が入っておらず、全国47都道府県をくまなく回ればまた、各地でそれぞれの味と感動があるのだろう。

島国である上に四季のある日本は、季節に応じた山海の食材に恵まれている。旬のものをおいしくいただくことは、健康で頑健な体作りをする上で最も大切だ。サプリメントやプロテインなど、栄養補助を目的とした商品が、どんどん進歩している。ただ、どんなに文化文明が進歩しようとも、原則が崩れることはないし、崩れてはならない。

15年ほど前、巨人で2軍のコーチをしていたころ、主に高卒のルーキーたちに座学をしていた時期があった。恐縮ながらも社会人としての常識やマナー、野球人としての基本的な心得などを、経験をもとに話していた。「旬のものを、口からおいしく、たくさんいただくこと」は、座学の中でも特に強調した。黒板に魚、野菜、果物を列挙して、例えば「ぶどうの旬はいつか」と尋ねても、答えられない選手は結構、多くて驚いた。ビニールハウス栽培や品種改良など、技術が発達した面もあろうが、今の若者は四季に対する感覚が希薄になっているのだと実感した。

長く現役でプレーする選手は、例外なく食についての意識が高い。食事にゆっくり時間をかけ、おいしく、たくさん、楽しく食べる。健康に直結している面でも、おいしい食べ物に興味を持つことは意味がある。(つづく)

◆小谷正勝(こたに・ただかつ)1945年(昭20)兵庫・明石市生まれ。国学院大から67年ドラフト1位で大洋入団。実働10年で285試合に登板し通算24勝27敗6セーブ、防御率3・07。79年から投手コーチ業に専念。11年まで在京セ・リーグ3球団でコーチ、13年からロッテ。17年から昨季まで再び巨人でコーチ。