ロベカルに憧れた少年は、いつしか白球に夢中になった。ブラジル生まれの楽天ルシアノ・フェルナンド外野手(28)は5歳で群馬へ移住。元ブラジル代表のサイドバック、ロベルト・カルロスに憧れ、フットサルクラブに所属した。だが、小学3年の時に退団。抜群の運動能力を持て余す中、放課後に校庭で練習する野球少年に心を奪われた。

7日、プロ野球合同トライアウトで本塁打を放つ楽天フェルナンド
7日、プロ野球合同トライアウトで本塁打を放つ楽天フェルナンド

小学4年のある日。野球チームのメンバーから声をかけられた。「毎日ずっとそこにいるけど、一緒にやってみない?」。バットは1度も握ったことがなかった。見よう見まねでスイングすると、ボールはみるみる飛んでいった。野球知識のない父ニルソンさん(50)母パトリシアさん(50)の反対を説得し、宝南スピリットに入団。巨人のファンクラブに入り、豪快なアーチを描く阿部に憧れた。

気付けば、白球に人生をかけていた。白鴎大から14年ドラフト4位で楽天に入団。15年6月3日ヤクルト戦で初安打を初本塁打で決めるなど1年目から39試合に出場。「スーパースターになるんだと。でも、厳しい世界でした」。2、3年目は1桁出場。4年目の19年オフに戦力外通告を受け、育成契約を結んだ。

楽天フェルナンド年度別成績
楽天フェルナンド年度別成績

崖っぷちで覚悟を決めた。「俺の人生、誰も責任はとってくれない」。指導者の声に耳を傾けながら、自らの思うように野球と向き合った。19年7月31日、期限ギリギリで支配下再契約。8月30日の日本ハム戦で2安打4打点。最初で最後のお立ち台に立った。拍手、歓声に感極まった。

今季は初の1軍出場なしで2度目の戦力外。初アーチを放った神宮でのトライアウトで、参加者唯一の本塁打を元同僚の由規から右翼席へ放った。可能性を信じ13日までスマートフォンを握りしめたが、着信はなかった。「人生の全てを野球にささげてきた。すごく悔しいけれど、支えてくれた人たちに少しでも夢は与えられたかなと。選手としての諦めはつきました」。

20年楽天退団選手(※は育成)
20年楽天退団選手(※は育成)

今後は未定。自らを作り上げた野球界に関わりたいと巡らせる。「ブラジルはまだまだ野球が盛んじゃない。世界中の子どもたちがやってくれたらうれしい。楽しいところを、もっともっと伝えられたら」。初本塁打の記念球や写真は、母国の実家で誇らしげに飾られている。【桑原幹久】