無我夢中のスイングに見えた。7回1死満塁。カウント3-1から、下関国際・仲井の真っすぐにタイミングを合わせた仙台育英・岩崎のスイングはシンプルだった。まるで「1、2の3」で振ったように何も邪念がない。真ん中高め、見送れば明らかなボール球だった。

狙ってできるスイングではないだろう。うまく上からたたけており、そしてボールの下にバットが入っている。打球に角度がつき、スピンもかかった打球は浜風にも乗ったように思えた。打った瞬間、私には左飛に見えたが、伸びてスタンドに届いた。これが今大会チーム初の本塁打。それが決勝戦の終盤、試合を決定づける満塁ホームランになるのだから、これが甲子園の持つ不思議な力といえる。

印象に残っている左翼への打球が2つある。まず準々決勝の近江-高松商戦。高松商・浅野の1点を追う8回1死一、二塁での第5打席。投手は山田を救援した左の星野。カウント1-0から変化球を左翼へ打ち上げた。高く上がった平凡なフライだったが、私の目には浅野の非常にきわどいミスショットに感じた。やや芯を外し、ほんのわずか仕留めそこなっている。逆転3ランになってもおかしくないほどの左飛だった。

もう1つは、やはり準々決勝の下関国際-大阪桐蔭戦。1点を追う大阪桐蔭の9回裏の攻撃。1死走者なしで、海老根が下関国際・仲井から放った打球は確実に芯で捉えていた。捉えすぎたと言ってもいいかもしれない。本当にわずか2~3ミリボールの下側にバットが入っていれば、角度がつき左翼への同点ホームランになっていただろう。浅野よりも、さらに紙一重の左飛だった。

浅野も海老根もこの世代を代表するバッターだ。その両者が、勝負のかかった場面でスタンドに届かず、岩崎の悪球打ちのような打球が、劇的にスタンドに飛び込んでいく。3-1というカウントもよかったのかもしれない。これが3-0なら、待てのサインが出ていた可能性もある。

おそらく、3-0からの4球目のストレートを見て、岩崎の中でタイミングが合ったのだろう。投げた瞬間、真っすぐにタイミングを合わせた無心のスイングがなせる業だった。今夏の甲子園に決着をつけるにふさわしい一撃となった。(日刊スポーツ評論家、この項おわり)