中大のグラウンドには、夜遅くまで北村恵吾内野手(4年=近江)がバットを振る姿がある。フルスイングで振り切ると、打球は広角へ力強く飛んだ。

北村の野球人生に大きな影響を与えた先輩がいる。「今まで関わった先輩の中でぶっちぎりの存在。自分のアニキです」と言うのが2つ上のDeNA牧だ。中大に入学し2年間、寮で同部屋。「牧さんの取り組む姿勢を間近で見られたのは大きかった」。最後までグラウンドに残り、いつも部屋に帰って来るのは夜遅かった。「これくらい練習しないと、いい選手にはなれないんだ」。一緒に練習を行ってきた。

自分を変えよう-。そう思った瞬間があった。1年からリーグ戦に出場も、木製のバットに慣れず、なかなか結果が残せなかった。2年秋、国学院大戦にスタメンで出場するも、1打席目はバント失敗。2打席目では三振で交代。「こんだけ練習したのに何で打てへんのや。無駄やったんか」。何もできなかった自分が悔しい。部屋に戻ると涙が止まらなかった。そんな北村に牧がそっと声をかけてくれた。「オマエは練習をしているから大丈夫。3、4年で結果を残せばいい」。顔を上げ涙を拭いた。「もう1度頑張ろう」。練習へ取り組む姿勢が変わった。

打撃練習では詰まっても逆方向に打つ練習を取り入れ、打撃の幅を広げた。1球1球、試合を想定し丁寧にバットを振った。牧の言葉通り、長打力に広角打法も身に付け、4年春にはベストナインを獲得した。

昨秋、新チームから主将に就任すると、強いキャプテンシーでチームを引っ張ってきた。今春、最下位決定戦のプレーオフに進むと「この経験は絶対に生きる。勝てば絶対に俺らは強くなれる」と前を向いた。東洋大との入れ替え戦初戦を落とすと「何か変わらないとダメだ」と自ら丸刈りにし主将の覚悟を態度で示し、チームメートを鼓舞。1球への執念を結束力にかえ1部残留を決めた。「今は打てなかったらチームにどうやったら貢献できるかを考える」。守備はもちろん、不調の時には下を向かずに誰よりも声を出す。苦しさから逃げない。常に変化を求め、気持ちの強さは誰にも負けない。

小2の頃「野球を始めたい」と父に懇願した。「やるからにはトップを目指せ。その目標がないならダメだ」と父に言われ、プロ野球選手を目標に掲げ、走り始めた。「不安ですが、やることはやった。自信はあります」。今まで歩いてきた道に間違いはない。小さい頃から追い続けてきた夢をかなえるときが来る。【保坂淑子】

9月17日、亜大対中大 2回裏中大無死、北村は左越えに本塁打を放つ
9月17日、亜大対中大 2回裏中大無死、北村は左越えに本塁打を放つ