激動の大リーグ1年目を終えた藤浪晋太郎投手(29)に7カ月間、密着し続けた男がいた。関西テレビの服部優陽(ゆうひ)アナウンサー(30)はなぜ休職してまで太平洋を渡ったのか。間近で見続けた“戦友”だけが知る藤浪メジャー挑戦の舞台裏に5回連載で迫った。

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服部アナウンサーは今年5月、日記帳に強い筆圧で書き記している。

「必ず聞き直すこと! 『メンタルは技術』」

アスレチックスに移籍した藤浪を追って3月下旬に渡米。5月上旬、2人だけの車中で右腕がこぼした本音を忘れないうちに書き留めたのだという。

「メンタルも技術の1つってことなんやな…」

服部は聞いた瞬間、思わず耳を疑った。

メジャー1年目の藤浪は開幕直後の4月、どん底に沈んでいた。開幕ローテ入りしながら先発4試合で0勝4敗、防御率14・40。同22日のレンジャーズ戦で2回1/3を8失点と大炎上した後、中継ぎへの配置転換を告げられていた。

「『全然気にしてない』とは言うけれど口数は少なくて、いろいろ考えているんだろうなと思っていました。あの頃の晋太郎は本当にもがいていました」

一方の服部も当時は現実の厳しさに打ちのめされていた。関西テレビを休職中の身。金銭面の負担が大きく、ホームステイ先のオークランドから観戦に向かえるのはせいぜい西海岸の球場まで。藤浪の遠征中は自室で有料動画サイト『MLB.TV』で投球を目に焼きつけるしかなかった。

「これじゃあ日本にいるのと変わらんやん…」

時にはスポーツバーの末席でNBAファイナル生中継からアスレチックス戦にこっそりチャンネルを替えて、店員にあきれられた。藤浪から驚きの言葉を受け取ったのは、互いに苦しんでいたそんな時期だった。

阪神在籍時、藤浪は1つの信念を貫いていた。「技術は精神面を凌駕(りょうが)する」-。制球難に端を発した絶不調期も、決して心に原因を求めたりはしなかった。技術と精神面を別物だと考えていた大器がなぜ「メンタルも技術」と考えるようになったのか。服部に返ってきた答えは後に、右腕が逆襲に転じる土台となった。

聞けば、藤浪はある日、代理人のスコット・ボラス氏からメンタルコーチを紹介されたのだという。

「君が今フォーカスすべきポイントは指先からボールを離すまで、なんだ。指先からボールが離れた後は、君にはコントロールしようがない。『打たれる』『打たれない』の結果なんて君にコントロールできることじゃないだろ?」

メンタルコーチから熱く訴えかけられた藤浪はその後、服部に「そう思い込むのも技術なんやろな」と語っている。日米でメジャー1年目右腕に対する懐疑論が飛び交っていた時期。打者ありきの数字ではなくプロセスに集中する作業の繰り返しは結果、大器の復調に力を貸すこととなった。

藤浪は同時期、かつて自主トレで師事したパドレス・ダルビッシュ有ともLINEなどで連絡を取り合い、金言を授かっている。

「フォームや再現性よりも、気持ちいいポイントで投げることを大事にしてみたらどうかな?」

懸命に試行錯誤を続け、周囲にも支えられ、中継ぎの一角として徐々に状態を良化させていた5月中旬。「野球の神様」が突然、藤浪にほほ笑んだ。

【佐井陽介】(つづく)

◆服部優陽(はっとり・ゆうひ)1993年(平5)8月25日生まれ、埼玉・さいたま市出身。早大時代に東京ドームでボールボーイを経験したことでスポーツアナウンサーを志し、16年4月に関西テレビ入社。スポーツキャスターとして活躍し、17年に第33回FNSアナウンス大賞で新人奨励賞、22年には第38回同大賞でスポーツ実況部門を最年少受賞。23年4月1日から休職して渡米し、同年11月より復職。168センチ。