野手組が合流した2月14日の全体キャンプ初日。練習開始前、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督(51)はクラブハウスの中央に立ち、全スタッフの前で熱いスピーチを行った。「準備をする上で、みんなそれぞれ異なるし、アイデアも違う。だが、よりグレートになろう。自分のバー(ハードルの意)を上げろ」と、熱量のこもった説得力のある言葉でチーム全体の士気を鼓舞した。選手やスタッフとコミュニケーションを緊密に取り、全員の心をつなげる「言葉力」こそ、ロバーツ監督の最大の武器と言っていい。

ドジャースのデーブ・ロバーツ監督
ドジャースのデーブ・ロバーツ監督

大谷、山本、グラスノーら巨大補強に成功した今季、早くも世界一の最有力候補に挙げられる。大谷、ベッツ、フリーマンに加え、夏場以降に復帰予定の左腕カーショーとMVP経験者4人が居並ぶスーパースター軍団。裏を返せば、目の前の相手だけでなく、目に見えない重圧との闘いとも言える。それでも、ロバーツ監督の、地に足の着いたスタンスは変わらない。「ゴールは何も変わっていない。確かにピースはそろったが、賭け値の高い位置にいるのは好きだよ」。オッズメーカーの倍率や専門家の予想など、周囲の雑音を気にする気配はない。同監督の言葉は、これまでの実績に裏付けされた確固たる自信に満ちていた。

02年6月、ロッキーズ戦で、ドジャース石井(右)にアドバイスを送るロバーツ
02年6月、ロッキーズ戦で、ドジャース石井(右)にアドバイスを送るロバーツ

就任後初のキャンプとなった16年2月。沖縄出身の日本人、母栄子さんは米アリゾナ州の練習施設を訪れた際、つぶやくように言った。「まさか、あの子がメジャーリーグの監督になるとは…。本当に大丈夫ですかね」。幼い頃から気の優しい息子デーブが、生き馬の目を抜くような、厳しい勝負の世界で先頭に立てるのだろうか-。不安そうな表情に、本心がのぞいた。

だが、栄子さんの心配も杞憂(きゆう)だった。日本生まれとして初の監督となったロバーツ監督は、ドジャースを球界トップの「常勝軍団」にまとめ上げた。就任以来、昨季までの8年間で5連覇を含む7回の地区優勝(2位1回)を飾り、20年には自身「三度目の正直」でワールドシリーズを制した。ポストシーズン通算44勝39敗と安定した戦績を残すなど、「名将」と呼ばれる領域も近い。

もっとも、過去3年間はワールドシリーズに届かず、昨季は地区シリーズで同地区ダイヤモンドバックスに「スイープ(3連敗)」される屈辱を味わった。「最大限に期待されるのは分かっている。ただ、我々はスポーツ界の中心にいるんだから」。世界一は巨大戦力、緻密なデータだけではつかめない。大谷、山本が加入した今オフ、日本語の勉強を始めた逸話に、ロバーツ監督の統率力と人柄が表れていた。【四竈衛】(おわり)

ロバーツ監督の年度別成績
ロバーツ監督の年度別成績

◆デーブ・ロバーツ 1972年5月31日、那覇市生まれ。カリフォルニア大ロサンゼルス校から94年ドラフト28巡目(全体781位)でタイガースへ入団。インディアンス(現ガーディアンズ)時代の99年にメジャーデビュー。その後、俊足巧打の外野手として、ドジャース、レッドソックス、パドレス、ジャイアンツでプレーし、09年に現役引退。通算成績は、打率2割6分6厘、23本塁打、213打点、243盗塁。左投げ左打ち。178センチ、81キロ。