第96回選抜高校野球大会(甲子園)が、18日に開幕する。8日に実施される組み合わせ抽選会を前に、「シン時代高校野球」と題し、高校野球の「今」を4つのテーマでお届けする。第1回は「シン金属バットがもたらすもの」。今大会から完全移行される新基準の「低反発バット」の実情に迫った。

新基準金属バット(左)の材料、形状と旧基準バットの材料、形状
新基準金属バット(左)の材料、形状と旧基準バットの材料、形状

高校野球が変わる-。一部の指導者がそう表現する新基準の「低反発バット」が、今春のセンバツ大会、春季都道府県大会から完全移行される。「打球による負傷事故(特に投手)の防止」と「投手の負担軽減による(肘、肩などの)ケガ防止」などが目的で、どのような形で試合の結果や進行に影響を及ぼすのか、注目が集まっている。

従来の金属バットと比べて、大きく2つの基準の変更が定められた。1つ目は「バットの太さ」だ。最大径は67ミリから64ミリと細くなった。もう1つは「打球部の肉厚化」で、従来の約3ミリから4ミリ以上に決定した。これにより金属のたわみが減り、バットがへこむことで強い反発力を生み出す「トランポリン効果」が減衰。打球の初速が3・6%落ちることが実証されている。重量は従来通りの900グラム以上に設定された。

日本屈指の強豪校、大阪桐蔭も昨秋の明治神宮大会後から本格的に新基準のバットを練習に取り入れ、試行錯誤を繰り返している。西谷浩一監督(54)は1月初旬に「飛ばなくなってるのは事実。ヒットの数も減って、バッターにとっては難しい」と頭を悩ませていた。高校野球の試合時間は平均で2時間~2時間30分とされているが、西谷監督は「2時間以内は余裕でいくんじゃないですかね。より守りが、より走ることが重要になってくる」と分析した。他にも「飛ばない」ことで、前進守備のシフトを敷く外野手の頭を越えて「三塁打が増えるのでは」と予想する監督もいた。

野球用具のメーカーも新基準バットの製作に力を注ぐ。ZETT社は昨年1月に3種類の打球感と4種類のバランス(ニア、ミドルニア、ミドルヘッド、ヘッド)から構成した7つのモデル(83センチ、84センチ)を発売。同社の担当者は「従来のバットは83センチの方が割合的には多かったんですけど、新基準になってからより遠くに飛ばしたいのか、84センチが多くなっている感じはしますね」と説明。中でも柔らかさと強くはじく打球感を兼ね備えたゼットパワーのミドルヘッドバランスが一番人気だという。

各高校、選手が悪戦苦闘する中、すでに攻略に自信をのぞかせている選手がいた。大阪桐蔭の4番、ラマル・ギービン・ラタナヤケ内野手(2年)だ。センバツ出場校が発表された1月26日には「難しいところもあるんですけど、慣れて前のバットよりも打てるようになっているかな」と話していた。フリー打撃時にこれまでほとんど使ってこなかった木製バットを取り入れ「芯でしっかり捉えることを意識しながら練習をして、金属バットの時も同じ意識で打てるようになった。いい練習を見つけることができた」と胸を張った。

23年11月、明治神宮大会の関東第一戦で適時二塁打を放つ大阪桐蔭・ラマル・ギービン・ラタナヤケ
23年11月、明治神宮大会の関東第一戦で適時二塁打を放つ大阪桐蔭・ラマル・ギービン・ラタナヤケ
大阪桐蔭のラマル・ギービン・ラタナヤケ
大阪桐蔭のラマル・ギービン・ラタナヤケ

高校生の能力を見極めるプロ野球のスカウトは「低反発バット」をプラスに捉える。巨人の岸敬祐スカウト(37)は「木のように芯で打たないと飛ばないと聞いているので、スカウトからするとプロに入る前から技術を高められるから非常にうれしい」と喜ぶ。「去年までの金属バットだと『今のでホームランになるんや』っていうシーンが多かったと思うので、そういう錯覚の誤差は減ると思う。細かい野球が増えるのではないか」と予想した。

昨春のセンバツでは12本のアーチが飛び出したが、今大会ではどれくらい減るのか。試合時間や総得点数にどれだけの変化が見られるのか。各高校の戦術にどれほどの影響を与え、また新たな景色が見られるのか。本当に「高校野球は変わる」のか、24年のセンバツ大会から目が離せない。【古財稜明】