昨年、外野の一角を手中にする活躍をした。当然、今シーズンの期待は大きかったが、過去に開幕スタメンを意識して2月、3月のキャンプ、オープン戦を体験したことはない。経験は浅い。それでも3月30日に照準を合わせて手探りのスタートを切ったが、なにぶん初挑戦。開幕に調子をピークに持っていくペースをつかめず、大目標の開幕スタメンどころか、ベンチ入りの夢さえかなわぬ事態となった。よくあるケースだが」、その気になっていながらのファーム落ちは悔しい。その気持ちを糧にして前に進むことだ。

 阪神中谷将大外野手(25)である。昨シーズン、チーム最多の20本塁打を放ってブレークした大砲候補。当然今季は開幕からの活躍を期待されていたが、3月半ばだった。鍛錬の場タイガーデンにその姿があった。

 自分で招いた試練。やるしかない。気持ちを切り替えて頑張るしかない。今、復活を目指してもだえ苦しんでいる。4月3日から鳴尾浜球場で行われた対広島3連戦を取材した。初戦が4打数2安打2打点。2戦目は3打数0安打1打点。3戦目が3打数2安打1打点。このゲームまでの7試合28打数3安打(打率1割7厘)を見ると何となく復調の兆しは見えてきたのだろうが、まだいい日と悪い日の繰り返し。本人の「その日によって良かったり悪かったりで自分の現状はよくわかりません」は偽らざる気持ちに違いない。2戦目のあと(4日)試合後の特打を拝見した。ピッチングマシンとバッティングピッチャーを相手に約1時間強打ちまくった。何球ぐらい打ったかは定かではないが、見ていてバットの芯で捉えた打球と芯を外した打球が半々ぐらい。いや…どちらかといえば打ち損なった方が多かったようにも思えた。普通、1軍で活躍している選手のバッティング練習を見ていると、だいたい7割から8割の割合でバットの芯で捉えている。

 この日の特打で見えたのは、中谷の1軍昇格はまだ時間がかかるという感覚と矢野監督、浜中、新井両バッティングコーチが見守る中にしては、自分の現状を踏まえたうえでのバッティング練習でありながら取り組む姿勢に、同選手の欠点といおうか、持続力に乏しい面と集中力に欠ける部分が見え隠れしていたのが気になった。この世界の言い伝えは「成功するという結果より、努力する過程を重視せよ」である。練習をおろそかにしてはならない。

 1日でも早く1軍に上げたい選手である。預かっている矢野監督は当然気になる。特打後に話を聞いてみた。「まだ時間はかかりそうですね。バットの軌道が遠回りしている。もともと速い球は苦手な選手でしたが、特に今はバットがインパクトまで最短距離で出ていかないからどうしても振り遅れてしまう。まだ、この時点で推薦するのは無理ですね」と見ている。浜中コーチも同じ見方をしている。「どうしても速い球へのタイミングがとれない。中谷の場合まっすぐが打てるようになれば、もっと打率があがるだろうし、ホームラン数も増えますけどね。1軍へ上がるにはまだ少々時間はかかります」同コーチも遠回りするバットの軌道を盛んに気にした

 こういう事態に襲われることがある。ある日突然バッティングフォームを見失ってしまう。自分のベストであるフォームは頭の中にはいっているはずなのに、体がそこへ戻れない。これ、一種の病とでもいおうか一時的には誰もがかかる厄介なもの。中谷みたいな発展途上の選手によく見られるが、連日素振りを難度も繰り返し、打って、打って、打ちまくってもなかなかいい方向に進まない。そして、悩めば、悩むほど深みにはまっていく。復活にはまさしく至難の業だが、この病、不思議なもので練習に打ち込む中、治療はある日突然「これだ」のきっかけをつかむと、疑問が頭の中で「ポーン」とはじけてくれる。選手によって復活の期間には差があるが、中谷、そこまでには至っていない。「テーマはやっぱりタイミングですね。やっとヒットが出るようになって状態は多少良くなってきましたが、これからは、こういうヒットが持続できるようにしていきたい。やはりタイミングですね」。弱肉強食の世界である。ポジションを空けて待ってはくれない。が、ヒットはバッターにとって最大の良薬。効き目のある薬であってほしい。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)

中谷将大(2018年3月16日撮影)
中谷将大(2018年3月16日撮影)
中谷将大(2018年3月11日撮影)
中谷将大(2018年3月11日撮影)