近鉄、横浜(現DeNA)で活躍した中根仁さん(51)は、この冬に公開された映画「レフトフライ」に出演した。

 秋原北胤監督が東大野球部出身で、東京6大学リーグで戦った仲間に声がかかった。同学年で法大出身の中根さん、桐蔭学園-慶大で投手として活躍した志村亮さん。そして年下になるが早大出身で日本ハムやDeNA投手だった江尻慎太郎さんも、スクリーンに姿を見せる。


 中根さん(以下、敬称略) 他にも6大学の仲間がたくさん出ているんですよ。もちろん初めてのことですが、いい経験をさせてもらいました。


 主役は小野寺昭さんで、和泉元彌さん、マギー司郎さんも出演している。

 中根さんと江尻さんが会話するシーンがあった。シナリオを見て2人で話した。「こういう言い方はしないよな」「こう変えてみましょう」。まさに役者さながらである。


 中根 本番で2人で相談したセリフをしゃべったら、小野寺さんが入ってこない。「今のセリフはどの部分になるんでしょうか?」って。いけねえ、小野寺さんに断っていなかったってね。勝手にやってプロに迷惑かけちゃったよ。


オフィスで仕事をする中根さん
オフィスで仕事をする中根さん

 役者は本業ではない。「アスリート街.com」というウェブサイトを運営管理している。(アドレスはhttp://www.athletegai.com/ フェイスブックはhttps://www.facebook.com/athletegai/?pnref=lhc)


 中根 このほどリニューアルしたんですよ。もともとは引退した選手の情報を掲載していたのですが、加えて現役選手の情報や選手に役立つ情報もアップしていきます。アスリート総合応援情報サイトですね。


 ユニホームを脱いだ直後の2014年3月に始めたサイトだが、その後の道のりは決して平たんではなかった。


 中根 お金の話ばかりしたくないけど、お金を稼ぐって大変だよね。現役時代は「打てば金になる」「勝てば金になる」。でも、世の中はそうはいかない。よく道を歩きながらも「この会社って、どうやってお金にしているんだろう」と考えますよ。


 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 宮城県仙台市で生まれた中根さんは、東北高から法大に進んだ。

 強肩強打の外野手として注目され、1988年ドラフト2位で近鉄に入団した。1年目から10本塁打を放つなど1軍に定着して活躍し、98年には横浜(現DeNA)にトレードされた。2015年に亡くなった盛田幸妃投手との交換トレードだった。

 横浜での1年目に勝負強い打撃で38年ぶりの日本一に貢献し、03年までプレーした。引退後は同球団で2年間スカウト、その後は1、2軍合わせて8年間コーチを務めた。


横浜・中根仁は片ひざをつきながらスイングする(2001年3月21日撮影)
横浜・中根仁は片ひざをつきながらスイングする(2001年3月21日撮影)

 中根 コーチ時代に今の仕事に結び付くきっかけがありました。


 秋にフェニックスリーグに参加するため宮崎市を訪れた際、同市内でお好み焼き店「かたおか」を営む元広島の片岡光宏さんに出会った。


 中根 チームのランチを準備してくれていたのですが、その合間に打撃投手をしてくれる。「中根、いつでも投げるぞ」って。面識なかったけど、もっと話したくて夜にお店にも伺った。もっと早く、この店を知りたかったなと思った。現役時代から知っていれば、もっと何度も来ただろうし、応援できたと思う。もっと早く知る手段ってなかったんだろうかと。


 球界OBが全国各地で飲食店などを経営し、奮闘している。その情報があれば、選手もファンも訪ねていける。


 中根 なかなか本人が「元プロ野球選手がやっている店です!」とは宣伝しにくいでしょう。「ぐるなび」のスポーツ版のようなものがあればいいのにと思うようになりました。


 13年のシーズンを終えると、球団から契約を更新しない旨を伝えられた。そんな予感はあったという。退団が決まると、脳裏にあった考えを実行に移した。インターネットに向かう日々が始まった。


 中根 引退したアスリートが経営する店を探しまくりました。


 翌14年3月には「アスリート街.com」を発足し、元選手が経営する店の情報を掲載した。

 私は発足当時からサイトを見てきた。全国各地の情報があり、なつかしい選手もいて、おもしろいページになっていた。


 中根 よく、そう言ってもらいます。でも、それだけでは経営は成り立たないんですよ。自費からの持ち出しばかりになってしまった。


 ウェブサイトの管理会社にも費用がかかる。記事を出す回数も減っていき、各店から宣伝費を受けるだけでは立ち行かなくなった。


 中根 セカンドキャリアを応援するなら入り口も、と思って有料職業紹介の資格も取って登録会社に登録しました。何人かまとめましたが、なかなか難しいですね。


 就職希望者と企業の仲立ちをして、最終面接まで進んだ学生がいた。


 中根 ここで「やっぱりやめます」ってこともあった。仕方ないけど、入社しないと私に利益はない。登録費用ばかりかさんで、ここでもお金を稼ぐ難しさを感じました。


 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇


 「アスリート街.com」についても、さまざまな検討を重ね、今年からのリニューアルを決めた。


 中根 ゼロからリニューアルして再出発です。「アスリート総合応援情報サイト」ですね。セカンドキャリアだけではなく、あらゆる競技の情報や現役選手の情報も載せていきます。健康もテーマにしていこうと思っています。


 中根さんがインタビュアーとなる「中根の勉強部屋」というコーナーも始めた。元アルペンスキー選手の岡部哲也氏を取材し、記事も書いた。


 中根 これまで取材される側だったから戸惑いますよ。念のためレコーダーを2個置いておいたら、片方は途中で止まっていた。危なかった。テープを起こして、原稿にまとめる。いやあ、できるかな。オレ、国語が一番苦手だったんだよ。成績は3333ときて2か1、で、3335だからね。(注=最後の5はもちろん体育です)


 ゴム製のトレーニング器具も販売していく。テレビ朝日系列の人気ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」で、米倉涼子さんが演じる大門未知子がストレッチに使っていたものと同じタイプである。


 中根 これ、気持ちいいよ。球界でも使ってくれている人がいます。こういうものも売っていきたい。


販売も手がけるゴム製のトレーニング器具でストレッチする中根さん
販売も手がけるゴム製のトレーニング器具でストレッチする中根さん

 アスリート街の仕事だけでなく、ネット動画配信サービス「OBTV」では、プロ野球中継を見ながら解説している。


 中根 試合の映像は流せないけどね。ネット動画だから視聴者の方からコメントがくるでしょう。このコメントをよく紹介するから、私は「コメントGM」と呼ばれています(笑い)。結構楽しいよ。


 知人の会社に顧問として名を置き、営業を手伝っている。

 サイトの運営者で、記事のライターで、健康器具を販売して、就職相談に乗り、営業を手伝い、解説も務め…1人で数多くの役を担っている。


 中根 つい先日、プロ野球を引退した後輩から電話がきた。結構活躍した選手ですよ。「何か仕事ありませんか?」って。私が景気いいと思ったんでしょう。「オレも必死だよ」と言いました。アドバイスしたのは「解説者とか、メディアの仕事に頼りすぎない方がいいよ」ということ。引退直後はいいけど、次に有名選手が引退したら位置が変わるでしょう。「今のうちに、きちんと考えておいた方がいい」と言いました。


 再び映画に出演する話もあるという。役の数が増えるごとに、中根さんの今は充実度を増していく。【飯島智則】