大昔、自分が日刊スポーツの南海ホークス担当記者だった頃、2軍の試合もよく取材した。真夏のデーゲーム。少ない給料の中から奮発して、首脳陣、選手にアイスキャンディーを差し入れしたことがあった。
「うれしいね。ありがとう、ありがとう。こういうことを若い選手は必ず覚えている。アイス1本、みんな、うれしく思っているからな」。こう伝えてくれたのは当時の2軍監督、穴吹義雄だった。のちに1軍監督になったが、2軍監督が実に似合う人物だった。
以来、2軍の練習、試合を見ることが好きになった。というわけで、先日、久しぶりに阪神の2軍の様子を見にいった。2軍といっても阪神の場合、番記者が多い。ファーム担当記者がいるのは阪神くらいではないか。そしてグラウンドに目を移せば、本来、ここにいないはずの選手がいた。それも今回のオールスターのファン投票1位選手が、だ。クローザーの湯浅に三塁の佐藤輝。そらにぎやかだし、騒がしい。
他にも例えば高山とか北條とか。かつて1軍でレギュラーを張った選手の姿が。そして、「エース」がいた。普通にいけば先発投手でファン投票1位になっていただろう投手であり、1軍で先発の柱になっているはずの投手。それがいまは2軍にもがいていた。
青柳が1軍から外れて久しい。2023年シーズンの開幕投手。監督、岡田彰布のその時点での考えはひとつ。「エースは青柳」「2年連続最多勝のピッチャーよ。何を注文するの?」。まさしく全幅の信頼を寄せていた。ところが思い描いたようなピッチングができない。勝ちはあるが、ほとんどが立ち上がりに不安定さを露呈。コントロールミスで自滅し、これまでの強い球は消えた。
岡田が下した判断は2軍行き。こんなはずではない。岡田も苦渋の決断だったけど、それは早い時期に戻ってこられる…という思惑があったから。ところが意外なほど時間がかかっている。その間、2軍戦で先発するが、やはり立ち上がり。うまくスタートを切れない。自分のペースに引き込むまでに失点するという形は残ったまま、いまに至っている。
青柳がファームにいる間、阪神の先発陣はそれなりに踏ん張ってきた。西勇、大竹、村上、才木、伊藤将。そこにビーズリーを入れての6人ローテーション。だが大竹、村上にも以前のような勢いが薄れてきて、才木、伊藤将は勝ち運に見放されている。そこにビーズリーはローテーションの穴を埋めてくれれば、の狙いだったが、やはり無理があったようだ。
セットアッパーやクローザーの不調もあるが、先発投手が耐えきれずに、先に点を許すという展開が多くなった。これは先行、逃げ切りを得意とする阪神の戦い方からすると、非常にまずいパターン。まずは先発投手が、できるだけ長く、そして少ない失点で持ちこたえることが前提。そこにいま足りないのが青柳というパーツだろう。
先のDeNA戦3連敗で1度は首位を明け渡したが、いまは順位を気にする時ではない。岡田も勝負はまだまだ先と読んでいるし、そこを見据えての構想がある。戦力の整備、立て直しであるが、まずは2軍で調整を続ける主力組が、どの時点で戻ってこれるか。そこを再進撃の起点に置いている。
湯浅も佐藤輝にも期待はしている。そして何より青柳である。こういった競った展開で、大竹や村上は経験が薄い。キャリアという点では西勇くらいだ。必然、青柳の存在がクローズアップされる。2年連続タイトルを獲得した実力とメンタルのタフさ。阪神のいま、求められるのは、この部分だろう。
「これから先、もう少しで戦力が整ってくる。だから、ここからよ」。2軍監督の和田豊から岡田に報告が入っているし、岡田も時間が許す限り、2軍ゲームを視察する。湯浅、佐藤輝にゴーサインがいつ出るか。何より待ち遠しいのは青柳へのゴーサイン。エースが戻ってくる時が、タイガースの再発進の時。さあ、岡田の判断はいかに。【内匠宏幸】 (敬称略)




