<イースタンリーグ:巨人2-5西武>◇25日◇ジャイアンツ球場


捕手として現役21年間で通算出場試合1527。引退後はコーチとして4球団で計21年間(うち1年間は編成担当)、合わせて42年間をプロ野球で生きてきた田村藤夫氏(61)が、巨人の高卒3年目横川凱投手(20=大阪桐蔭)のピッチングに内角球の重要性を見た。

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5回2/3を被安打4で3失点という成績だった。これが1軍ならば試合を作ったと言えるが、ファームだと評価が分かれる。ピッチングの中身を吟味すると、内角球の使い方に改善の余地を強く感じる。

横川は左打者3人に対し、全27球のうち4度内角球を使っている。そのうちの2度は外角を狙ったボールが逆球となったもので、内角を意図したボールではない。

残る2球は捕手が内角に体を寄せており、意識して投げていた。山村との対戦では、初球から4球続けて外角に投げ、カウント2-2から内角ストレートで空振り三振。このボールは外角球を続け意識を外に置かせた上で、内角球で仕留めようという狙いが感じられた。

高木に対しては外角にストレートでストライク、外角にストレートでボール、外角にカットボールでボール。カウント2-1から内角を狙ったストレートがボールになり、結果は四球となった。このボールは見せ球ではなく、勝負球で使った内角球で、バッテリーからすればストライクがほしい場面。カウントもバッティングカウントで、甘く入れば長打の危険性をはらんでいた。

横川は見せ球としての内角球を使っていない。見せ球の内角球というのは、カウント0-1、1-2というバッテリー有利なカウントで、内角を厳しく突き、そのボールを布石として外角への変化球、場合によってはストレートで打ち取る狙いが込められている。

勝負球としての内角球は文字どおりに内角で勝負する球で、ストライクゾーンギリギリならばいいが、ボールにしたくない心理が投手に強く働けば、甘く入る危険が潜む。

同じ内角球と言っても、カウントによって性質は異なり、この意味合いをよく理解して投げなければならない。

そして、私の経験上、見せ球としての内角球は、腰のあたりにしっかり投げ込む必要性を感じる。腰のあたりに投げれば、打者の重心が動く。そうなると、次のボールで横の揺さぶりができるようになり、打者攻略の糸口が見えてくる。

ただし、腰より上になると、コントロールミスした時、胸より上、頭部付近に行く可能性があり、捕手としてはあまり要求することはない。

左打者が左投手を苦手にするという一方で、左投手が左打者を苦にするケースも相当数あった。そして、左打者への内角球を克服した投手は飛躍的に勝ち星を伸ばしている。

その好例が中日の大野雄大になる。左打者の腰辺りへ投げられるようになり、大きく開花したと言える。恐らく、自分の勝てるピッチングを振り返り、内角球の大切さを身をもって感じたのではないか。それまでは、同じ内角球でも打者の足元への投球になったり、ベース上を通過して低くなることも散見された。そこから腰付近への制球を身に着け、それが自信となったのだと想像する。

これらのことはプロの投手すべてに共通する。横川も、この日西武先発の本田も同じことだ。見せ球としての内角球を、意図して打者の体勢を崩せるコースに制球できるか、できないか。もしくは意図して投げようとしているか、あいまいにしているか。この違いだろう。

西武本田も、巨人横川も見せ球としての内角球は1球もなかった。その背景に何があるのか。これは私の想像だが、当てたら打者に悪いなという感情が働いているのではないか。そして内角へ制球できる技術的な課題と、精神面が相まって、しっかり内角球を制御する投手が少ないのだと感じる。

しっかり内角を攻め、打者の腰を引かせるボールならば、その効果は1球以上の影響を与える。逆に言えば、1試合でその打者との4打席の中で1球、きっちり投げることができればいい。まず技術的に投げきる制球を身に着ける。そして、どうして内角に投げるのかを深く理解し、当てたら打者に悪いという感情を抑止して、1軍ローテーション投手を目指して研さんに励んでもらいたい。(日刊スポーツ評論家)