<イースタンリーグ:日本ハム6-2ロッテ>◇16日◇鎌ケ谷

捕手で通算出場1527試合、引退後は4球団で計21年間を過ごし、合わせて42年間をプロ野球で生きてきた田村藤夫氏(61)は、日本ハム斎藤佑樹(33=早大)のピッチングをスタンドから見守った。

   ◇   ◇   ◇   

私は客観的な事実を伝えたい。そのひとつは、斎藤が投げるボールの質だ。球速はどれだけ出て、その初速と打者の手元での球威はどういう関係になっているのか。フォームはどうか、体の開きは大丈夫か、タイミングを外す工夫はあるか。足を上げる動作や、トップに入るリズム、右腕のしなりは、そしてリリースポイントでの粘りは見えるか。

チェックポイントを用意して、スタンドから斎藤のボールに集中した。私にはどのボールもチェンジアップに見えた。腕の振りに対してボールが来ていない。全球チェンジアップなどということはないはずだ。ストレート、カットボール、それにツーシームを投げているはずだが、意識を集めて見ても区別がつかなった。2球だけ投げたカーブは分かった。こんなことは初めてだった。

各球団の編成担当がいたので確認してみた。球速129キロがストレートで、124~6キロがツーシーム、カットボールということだった。これでどうやってピッチングを組み立てるのだろうと感じた。表現は悪くなるが、どれも棒球に近い。打者からすれば、いずれも打ちごろのボールに見えるだろう。打ち損じを待つ、そう見えた。

私が伝えたいことはもうひとつある。打者が斎藤のボールに対してどう対応しているか。どんなに球威がなくても、打ち取る投手はいる。球速がすべてではないからで、タイミングを合わせずらい投手はなかなか打てない。私の現役時代、コーチ時代に何人も見てきた。

斎藤は先発して2回を投げ、打者7人に2安打(うち1本塁打)1死球。4つの外野フライと、盗塁死と走塁死で、2回1失点。1回は1安打。2回は場外ホームランの1安打。

2回2安打での1失点は、数字だけ見ればそれほど悪いとは感じないかもしれない。盗塁死、走塁死を除く4アウトは、いずれも外野への飛球。どれも紙一重の打球に見えた。1巡目の打者からすれば、打席で見る斎藤のボールは思ったよりも来ないと感じたのではないか。ボールを待ちきれず、タイミングがちょっとずれての外野フライという印象を受けた。

私は打者がどの球種を待ち、どのタイミングでスイングをするのか、それを捕手の経験から観察している。決して球速が遅いから打たれるのではなく、タイミングが合わせやすいから打たれるのだと理解している。確かにこの日の斎藤のボールに対する打者の対応は、ボールが来ないから待てずにタイミングがずれたと言える。しかし、タイミングを外して打ち損じを誘発したものとは区別すべきだろう。仕留め損なってアウトになったと感じた。

投手が打ち取った、もしくは打ち損じに導いたと考えるか、打者が仕留めそこなってくれたと受け身の立場で評価するか。見ている人の感覚、評価の基準で判断するしかないだろう。私は、打者が仕留め損ない、何とか紙一重で外野フライで済んだと見えた。

私の目には、今の斎藤は投球フォームにも、ピッチングの組み立てにも、そして制球にも、課題を改善できずにいるつらさの中にいると見える。打者にタイミングを合わされ、狙い通りにスイングされ、ミートされる姿は見るに忍びない。

今季、私はこれで3度、斎藤のピッチングをスタンドから見た。右肘痛から保存療法で復活を目指す斎藤が、決して速くはないボールで、いかにして生きる道を探るか、それを見届けたいという思いだった。当然、ツーシームに頼りがちなピッチングには警鐘を鳴らすこともあり、球威不足は事実として指摘もしてきた。

この時期に、スタンドから全球チェンジアップに見えてしまったことが、非常に強く印象に残った。言うまでもなく、チェンジアップとはストレートがあってこその変化球だ。ストレートに比べ腕の振りのわりにボールが来ない。だから、打者はその時間差に惑わされて打ち損じる。それが、全球がベースに来ない現状を見て、秋口になってこの状態にある斎藤のつらさを思うしかない。

先ほど説明したように、実力に即した評論をすることが、この世界で唯一フェアな姿勢だと信じている。力のないボールを、いいボールとは言えない。いいボールなのに打たれた現象から、どうすれば回避できたか、もしくは打者の打ち損じを誘発できた背景を、私の知識と経験の中で解説はできる。

この日斎藤がフルスイングされながら2イニングを投げた内容に、今後へ向けた課題を具体的に提示できない。これまで2軍を見てきた者として、今の斎藤をこれ以上分析、解説できない自分自身の力量不足を、痛感している。(日刊スポーツ評論家)