WBCが開幕した。田村藤夫氏(63)は、侍ジャパン以外のチームから印象に残るプレーを追う。1次ラウンドB組、韓国-オーストラリアでは、オーストラリアが4回に決めたバントに、田村氏は驚きを隠せない。

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両チーム無得点での4回表、オーストラリアの攻撃は先頭のジョージが2打席連続の死球で無死一塁。マウンドは韓国先発のサイド右腕の高永表。そこで見せたホワイトフィールドのバントだった。バントの構えから、軽くバットを振るような打ち方で、ボールに当てた。

一塁方向へ、体ごと動かすように決めるプッシュバントとは違い、わずかだがバントの構えでバットを振っていた。打球はショートへ。セカンドベースカバーを想定していたショートは、打球を捕っただけ。どこにも投げられない。内野安打となって無死一、二塁。その後の犠飛でオーストラリア代表は先制に成功した。

私は見ていて正直、とても驚いた。なんだ、このバントは! と思ったが、すぐにその意図を考えて、これはおもしろいと感じた。

まず、無死一塁であれば、セオリーとしてはセカンドは一塁ベースカバーに入り、ショートはセカンドベースに入る。これは甘いバントだった時の併殺に備えた基本的な守備陣形になるが、このセオリーをオーストラリア代表は逆手に取ったことになる。

こんな発想もあるのかと。つまり、ショートがセカンドベースに入るため、極端なことを言えば、投前バントになっても、ピッチャーはセカンドには投げられない。一塁でアウトにすればいいと割り切ることもできるが、無死一塁での守備陣形が染み付いているNPBの概念からすると、イレギュラーの動きになり、それがミスにつながらないとも限らない。

状況に応じたバント処理のシフトを徹底してきたNPBからすれば、オーストラリア代表が見せたバントヒットは、1周回って非常に斬新に映る。何をしてくるか分からないというメッセージとしては、非常にインパクトがあるワンプレーとなった。

国際大会はロースコアでの展開が予想される。そうした緊迫した試合展開では、予想外の動きに惑わされ、選手が戸惑うことが、大きな判断ミスを誘発することも十分に考えられる。徹底して訓練してきた日本のような野球文化を持つ国には、こうした柔軟な手法こそが、警戒すべきワンプレーとも言える。

仮に侍ジャパンが同じバントで攻められたとしたら、取るべき対策は、ショートを狙われることを想定して、ショートは定位置のままで、打者走者だけをアウトにする。また、通常のバントをしてきた場合も、一塁手、三塁手ともに打者走者をアウトにすると確認しておく。この声がけが非常に大切になる。

それでも、平凡なバントであれば、通常シフトなら併殺を取れたのでは、というもどかしさが残る可能性はある。そういう心理的な部分を含めて、ペースを乱された方が後手に回るのが、緊迫感のある国際大会ならではの難しさと言える。

少なくとも、韓国代表のショートは守備力の高い金河成だっただけに、意表を突かれたのは間違いない。これだから、国際大会は気が抜けない。無死一塁からのバントひとつ取っても、これだけのサプライズを見せてくれるのだから。(日刊スポーツ評論家)