八王子学園八王子・安藤大斗主将(3年)にとって安藤徳明監督(56)は父であり、監督。いわゆる“親子鷹”だ。

 私自身も“親子鷹”ではないが、小学校、中学校と似た経験をした。父が野球チームのマネジャーを務めていたため、いつもベンチには父がいた。ミスをすると怒っている監督の後ろには、もっと怒った父がいた。なぜ自分だけベンチに父がいて、怒られないといけないのかと思っていた。大斗主将が自ら父の高校に行き、一緒にプレーしたいと思う理由は何なのか知りたいと思った。

 大斗少年は、保育園の頃から八王子学園八王子の試合を見に行き、家に帰ってはお気に入り選手の物まねを披露するなど、自然と野球が生活の一部にあった。

 毎年夏の予選に敗れた父は、ぐったりしていて、大斗少年はそんな姿を見て「父を甲子園に連れて行きたいと思い、野球を始めた」と振り返る。だから高校進学時には、迷わず八王子学園八王子を選んだそうだ。「父が『親子の縁を切るぞ』と言ってくれたおかげで、今は気にせず自分の野球ができている」。入学後は監督と選手の関係になるため、遠方から通う生徒用に用意された寮に入り、家族の待つ家には帰らなかった。

 “親子鷹”であるが故に、周りの目に悩むこともあった。「厳しいことをチームメートに言った時には、やっぱり感じましたね」。時に周囲は監督の息子だからと特別視した。「自分は直接見ていないが、ネットにも(良くないことを)書かれていたらしい」。

 そんな時、大斗主将を支えたのが、母親や中学時代の顧問の先生だった。寮生活で会えない母親からはLINEで、中学時代の先生からは電話で励まされた。「精神的に弱い部分があるので、周りのみんなに支えられた」と父以外にも感謝する。スタンドで試合を見守り、感謝を伝え聞いた母・文子さんの目には涙が浮かんでいた。

 そんな支えもあり、主将になることを決意できた。「選手間投票で3人が選ばれ、その3人で誰が主将になるかを話し合った。初めはやりたくなかったが、誰も立候補しなかったので『やろう』と思った」。徳明監督も息子の決意に腹をくくった。

 そんな“親子鷹”の生活ができるのも今夏が最後。初戦は10-0で5回コールド勝ちし、自身も3打数2安打1打点といいスタートを切った。次戦は強豪、佼成学園と対戦。大斗主将は「自分たちの野球を信じてやるだけ。父を甲子園に連れて行く」とチーム2年ぶりの甲子園を目指す。清宮幸太郎擁する早実を破り、甲子園に出場した16年夏はメンバー外。自身の力で父を甲子園に連れて行くため、最後のチャンスで西東京を勝ち上がる。【久永壮真】