米大リーグのアストロズがデータを駆使して17年に初めてワールドシリーズを制覇し、今年はDeNAがオープン戦で大胆な守備シフトを見せた。野球に限らず、スポーツ界はデータ分析を専門に行う人材が増えている。過日、都内で「スポーツアナリスト ミートアップ」というスポーツデータの分析発表会が開催。17年に名人を初めて破った将棋ソフト「ポナンザ」共同開発者の大渡勝己氏(28)ら80人が参加し、9競技のデータ分析事情などが示された。

野球記者にとって、もの珍しい例が多かった。登山の発表者は、標高や歩行時間などから高尾山で必要なエネルギーを「1TKO」と仮定した。これを当てはめると、富士山の吉田ルートは22TKOに相当するという。ゴルフの飛距離は、腕力ではなく遠心力の使い方、打ち出し角度、スピン率が重要。野球で最も飛距離が出る「バレルゾーン」の25~35度ではなく12~17度、スピン量も1分間に1700回転程度に抑える方が飛ぶという。フィギュアスケートでは人工知能(AI)で画像分析したジャンプの採点を試行し、正答率は58・3%だったと報告された。

バスケットの選手評価の基準では、野球のセイバーメトリクスのような概念が流行中という。得点やリバウンド、アシストだけでなくスクリーンプレーやパスコースを消すといった、測定しにくい項目を細分化する方向ではなく、出場時間中のチーム得失点から選手の貢献度を割り出す。セイバーにはK/BB、FIPという有力指標があるが、これは三振と四球(FIPは本塁打も)だけで投手の能力を測るもの。被安打は運に左右されることが多く、能力を測るのには不適当とする。これまでの「常識」に反したデータは興味深い。

野球では、マリナーズ菊池が有効な変化球を科学的に生み出す(デザインすると表現)取り組み、エンゼルス大谷が昨年5月以降に外角低めに投げられるようになったことから成績を伸ばした例が紹介された。

大渡氏はAIを使い、サッカーのロシアワールドカップ(W杯)で日本の予選突破確率を42%と予想していた。約100万試合を計算し、快進撃にも不思議はなかった。決勝のカード決定後でも、フランスの優勝確率は約60%程度。「人の思考バイアスは『強い方が勝つ』に寄りやすい」と結論づけた。プロ野球は、もうすぐペナントレース開幕。日本でもデータを駆使し、大方の予想を覆すチームが現れるかもしれない。【斎藤直樹】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)