【講師はトップ選手顧客にする竹内佑氏】「グラブのお手入れ」を特集します。硬式用なら6万円前後の革製品なのに、時にはどろんこにもなるグラブ。手入れのやり方次第で耐久性に大きく差が出ます。「ATOMS TOKYO」店長で、グラブ仕上げ専門ブランド「REAL FORM」代表の竹内佑(たすく)氏(30)に、「しっかりお手入れ」と「必ずお手入れ」を教えてもらいました。プロ、社会人、大学野球にも顧客を持つスペシャリストです。【特別編集委員・久我悟】


【2パターンを紹介】JR浅草橋駅から徒歩2分。「ATOMS TOKYO」は隅田川に向かう屋形船の船着き場を望む、小さな店舗だ。接客からグラブの型付けまで1人でまかなう竹内氏は、駒大在学中から野球専門店に勤務して、知識と技術を身に着けた。その後、独立して型付けや加工など、グラブ仕上げの専門家に。自らプロデュースするグラブの評価も高い。昨年3月には、かつての大手メーカーの下請けから、自社ブレンドで急成長する「ATOMS」の東京店を任された。そんな「下町の若き鉄腕」(アトムだからね!)のグラブの磨き方。中学、高校ともチームや部活動によって使用頻度は違うが、月に1、2回はやっておきたい「しっかりお手入れ」と、使った日にはやっておきたい「必ずお手入れ」の2パターンを紹介してもらった。

【しっかりお手入れ=手を入れる部分やひもも忘れず】◆用意する物 汚れ落としクリーナー、保湿剤、捕球面用ワックス(またはオイル)、背面用オイル(またはワックス)、ブラシ3本(馬毛、豚毛かナイロン、ヤギ毛)、隙間に届く小さなブラシ、タオル、ミトン

 竹内氏「まずブラシで表面の土やほこりを払うように落とします。ブラシの毛は長めが捕球面で使いやすいです。グラブ専用は豚毛が一般的ですが、僕はそれより少し軟らかく、表面が傷つきにくい馬毛の靴磨き用を使っています。グラブも靴も革製品だから問題ありません。指の間や、ひもの隙間など細かい部分は「100均」で売っている、小さなブラシが便利です」

 「しっかり」の時は、親指と小指の掛ひもを外し、やれるならバンド部のひもも抜く。細部や手入れ部分も同じ作業を行うためだ。数分間のブラッシングが終われば、汚れ落としクリーナーのふたをとった。

 竹内氏「少しずつタオルなどの布につけて、浮かび上がる汚れを拭き取ります。革の色も落ちますが、その後の作業や乾けば戻ってきます。直接肌に触れる、手入れ部分やヘリ革が1番汚れています。汗の塩分をとらないと、革が割れます。終わったら、もう1回ブラシをかけて、タオルの毛を落とします」

 数分乾燥させたら、クリーム状の保湿剤。指にほんの少し付けて伸ばしていく。

 竹内氏「なじませて押し込んであげるイメージ。スポンジでもいいですが、指の方が加減して塗れるし、グラブの状態が確認できます。革の傷は敗れの原因になります。指掛けやひもなども保湿します。終わったら硬めのブラシ(豚やナイロン)を、クリームを押し込むイメージでかけたら、数分間軽く乾燥させます」

 捕球面用のグラブワックスをタオルで塗って保革する。ボールの滑りを抑えるグリップ力があるタイプを好む人が多いが、塗りすぎるとグラブが重くなるので、ごく少量を広げていく。終わったら、再びブラシで押し込むようになじませる。背面はつや出し効果があるオイルを指で薄く広げ、ブラシで仕上げる。汚れ落とし、保湿、保革の効果が含まれる「オールインタイプ」も多い。

 竹内氏「グラブに触る時間が多い方が、愛着も沸くし、状態が確認できるので、用途別にクリームやオイルを使い分けたいです。時間次第で、オールインワンタイプを使うのがいいでしょう」

 最後は余分な油分をぬぐう意味でも、ミトンややわらかいヤギ毛のブラシで磨く。新品の時より、ピカピカになるし、汚れも付きにくくなる。


【必ずお手入れ=汚れと汗の塩分を落とそう】◆用意する物 ブラシ(馬毛)、固く絞ったタオル、保湿剤

 竹内氏「勉強や自主練習など、やることも多いので、お手入ればかりに時間は割けません。ただし、グラブを使ったら、必ずブラッシングしましょう。全体的に汚れを落としたら、硬く絞ったタオルやウェットシートでふいてあげるといいです。特に汗にぬれた手入れ部分の塩分を落とすつもりで。時間が無ければ、ブラッシングだけでもいいです。ささくれたところに、ブラシをかけるだけで、革の中にある油分が出てきます。そして、全体を直接触ってあげましょう。かさつきが気になれば、保湿剤を使って、ブラシをかけてあげましょう」


【まとめ=大事なのは愛情を注ぐこと】「しっかり」も「必ず」もお手入れに共通するのは「ブラッシング」と「手で触る」だ。今回、竹内氏はブラシを使い分けたが、まずは1本用意して欲しいという。

 竹内氏「ブラッシングを習慣にして、そのうちに使いやすい物をみつけてください。大事なのはグラブにさわって、愛情を注ぐことです。活躍している選手ほど手入れをしているし、状態に敏感で、ひもが切れたり、革が破れる前に修理の相談にやってきます」


【靴磨き用品会社のグラブケアセット】竹内氏が仕事で使うオイルやワックスは仕事を通じて自分で開発したものが多い。今回、使ったのは「フォーチュンフィールド」のグラブケアセット(税込み3850円)。靴磨き用品の会社がグラブ用に開発したもので、汚れ落とし用のクリーナー、保湿用のクリーム、捕球面用のオイル、背面用ワックス、ナイロン製のブラシ1本入りで、コストパフォーマンスと合わせて、野球専門店での評価が高い。これに、捕球面だけATOMSのプレミアムワックス(同1320円)を使用した。

【保形ベルトはバッグの中だけで】帰宅後はバックからグラブを出し保管する。手入れの習慣化と乾燥も目的だが、何より開いた状態で使う道具なので、できるだけ、手を入れたのと同じ状態にしたい。捕球面を下に向けて置いたり、S菅フックでつるすのもOK。小指面を上にして二つ折りの状態は避ける。ボールを入れて、保形ベルトでしばるやり方もあるが、バックに入れて運ぶときだけにしたい。

【雨の日は指の中まで水分をとる】雨の日に使用した時は、硬く絞ったタオルなどで汚れを落とし、風通しのいいところで乾かす。その際、扇風機はいいが、温風はNG。指の中は細い筒状にした新聞やキッチンペーパーなどを入れて水分をとる。乾ききる前に、保湿剤を使うと、革の油分が残り、ばりばりになりにくい。軟式用でもいいので、乾くまで代わりに使う「第2グラブ」も準備しておきたい。

【指掛け、ひもの結び方】グラブのひもや親指掛け、小指掛けの結び方はさまざま。竹内氏の結び方を写真で紹介する。結び終えたら、結び目をつまみ、ひもを1本ずつ引っ張るとしっかり結べる。ひもがほどけていると審判から結び直すようチェックされることもあるので、きれいに結べるようにしておこう。

使ったら必ずブラッシングだけはしましょう。写真はオイルやワックスをぬったあとに、革になじませるためのブラッシングです。グラブを傷つけないよう、素早くやわらかく、持ち手の部分が革を傷つけないように工夫しましょう
使ったら必ずブラッシングだけはしましょう。写真はオイルやワックスをぬったあとに、革になじませるためのブラッシングです。グラブを傷つけないよう、素早くやわらかく、持ち手の部分が革を傷つけないように工夫しましょう
【ブラッシング】ATOMSグループの「エールストーリー」を手入れしていく<左上>馬毛ブラシを使って汚れを落とす<右上>100均で購入したすき間用も便利<左下>指掛けひもや<右下>時間があればベルトも外して作業する
【ブラッシング】ATOMSグループの「エールストーリー」を手入れしていく<左上>馬毛ブラシを使って汚れを落とす<右上>100均で購入したすき間用も便利<左下>指掛けひもや<右下>時間があればベルトも外して作業する
【汚れ落とし】<上>今回は液体クリーナーを少量ずつタオルにつけ<中>汚れを拭き取る<下>指の間は布を小指に巻いて潜り込ませる
【汚れ落とし】<上>今回は液体クリーナーを少量ずつタオルにつけ<中>汚れを拭き取る<下>指の間は布を小指に巻いて潜り込ませる
【保湿】<右上>保湿剤を少量ずつ指で塗り広げる<右上>ひもや<下>手入れ部分、ヘリ革もに塗り広げ、終わったらブラシでなじませる
【保湿】<右上>保湿剤を少量ずつ指で塗り広げる<右上>ひもや<下>手入れ部分、ヘリ革もに塗り広げ、終わったらブラシでなじませる
【保革】<上>今回は説明書きに従い、捕球面用のワックスをタオルで。溶けやすいタイプのワックスやオイルなら指で塗ってもいい<下>背面用オイルやワックスを指で塗る。終わったらブラシでなじませる
【保革】<上>今回は説明書きに従い、捕球面用のワックスをタオルで。溶けやすいタイプのワックスやオイルなら指で塗ってもいい<下>背面用オイルやワックスを指で塗る。終わったらブラシでなじませる
【仕上げ磨き】<左上>好みでミトンや<右上>ヤギ毛ブラシで磨くと<下>ピッカピカに
【仕上げ磨き】<左上>好みでミトンや<右上>ヤギ毛ブラシで磨くと<下>ピッカピカに
【必ずお手入れ】<上>ブラッシングは欠かさず<下>硬く絞ったタオルで汚れや手入れ部を拭く。気になれば保湿も行う
【必ずお手入れ】<上>ブラッシングは欠かさず<下>硬く絞ったタオルで汚れや手入れ部を拭く。気になれば保湿も行う
<左上>表面同士が見えるように重ね、<左下>十字に結ぶ。<右上>もう1度表が見えるように重ねて<右中>真横に結び終えたら<右下>結び目をつまみ、あらためて1本ずつ引っ張る
<左上>表面同士が見えるように重ね、<左下>十字に結ぶ。<右上>もう1度表が見えるように重ねて<右中>真横に結び終えたら<右下>結び目をつまみ、あらためて1本ずつ引っ張る
【必ずお手入れ】<上>ブラッシングは欠かさず<下>硬く絞ったタオルで汚れや手入れ部を拭く。気になれば保湿も行う
【必ずお手入れ】<上>ブラッシングは欠かさず<下>硬く絞ったタオルで汚れや手入れ部を拭く。気になれば保湿も行う
ATOMS TOKYO店内の壁には、型付け済みグラブがつるされている
ATOMS TOKYO店内の壁には、型付け済みグラブがつるされている
ぬれた時はキッチンペーパーなどを筒状にして、指の中を乾かす
ぬれた時はキッチンペーパーなどを筒状にして、指の中を乾かす
親指を下にして置くのはやめて
親指を下にして置くのはやめて
小指と親指にS字菅をかけ、つるしてもいい
小指と親指にS字菅をかけ、つるしてもいい
店内にはDeNA牧の愛用タイプなどATOMSやグループの野球道具が並び、購入すると竹内氏が型付けをしてくれる
店内にはDeNA牧の愛用タイプなどATOMSやグループの野球道具が並び、購入すると竹内氏が型付けをしてくれる