ヤクルト対阪神 好投する阪神先発の青柳(撮影・小沢裕)
ヤクルト対阪神 好投する阪神先発の青柳(撮影・小沢裕)

それでなくても負担のかかる移動ゲームは延長12回引き分けに終わった。松山から東京へ移動して神宮球場での試合。両軍と重なる便は避けた。おかげで豪華なことになった。搭乗した全日空機に江夏豊、野茂英雄がいた。前日16日のテレビ中継でともに解説を務めている。だから何も不思議はないのだが、それでもこの2人が目の前にいると「おお」と感慨深い。レジェンドのゆえんである。

さして広くない松山空港の搭乗待合室。江夏は熱心な野球ファンにサインを求められた。「いいよ」。気軽に1枚、2枚とマジックを走らせる。だが3人目が差し出すと「もう、ええやろ。2枚も書けば十分だ」。横で見ていて、その線引き、切り替えの鮮やかさに目を見張った。やはりレジェンドだ。

レジェンド。伝説。この日は虎党なら誰もが知っている日だ。1985年(昭60)4月17日。世に言われる「バックスクリーン3連発」が飛び出した。これでチームは一気に盛り上がり、歓喜の優勝へ向けて突っ走った。

バース、掛布、そして岡田。実は2番目に放った掛布雅之の打球はバックスクリーンに直接、飛び込んだのではなく客席で弾んで入ったのだが、そこは伝説。誰もいちいち訂正しない。以前、それについて聞いた掛布も「そうなんだよ。入ってないんだけどね。そこが阪神ファン、関西のよさだろ」と笑った。

「千里の道も一歩から」。青柳晃洋の勢いのある投球を見ながら、そんなことを思っていた。プロ4年目の青柳、ここまで完封はもちろん、完投勝利もない。6回を終えて99球。普通は交代だろう。しかし万が一、完封勝利を収めるようなことになれば青柳にとっては大きな自信になる。将来、レジェンド級の投手になる「最初の1歩」になるかもしれない。いけるところまでいけ! 7回を終えて、そんなことを考えていた。

もちろん強力打線のヤクルト相手に2点差ということもあり、チームの勝利を考えれば継投策に出たのは当然だろう。それが失敗。青柳の白星が消えたことを含め、作戦として、どうこう言えない。ただ時には選手を際立たせるのも必要だ。箔(はく)を付けさせるのは意味がある。

レジェンド。そう評される存在は多くない。プロ選手になるのは大変だが、その世界で一目置かれる存在になるのはさらに並大抵ではない。だが現役でいる以上、その可能性は少なくても、ある。勝敗同様、そこに挑戦し、挑戦させることも大事にしてほしい。青柳が個人的にはまだ投げる気でいたのは心強かった。(敬称略)

ヤクルト対阪神 7回の投球を終えた阪神先発の青柳は梅野(左)と談笑する(撮影・小沢裕)
ヤクルト対阪神 7回の投球を終えた阪神先発の青柳は梅野(左)と談笑する(撮影・小沢裕)