阪神の逆転勝ちだったが、ヤクルト村上宗隆の「1イニング3盗塁」には驚かされた。重盗交じりとはいえ、安打で出てすべての塁を盗むなど、盗塁王を狙うような選手でもなかなかできない。それを本塁打打者の村上が決めるとは。この日までに8盗塁していたので足にも結構、自信あるのかも。

順調に成長する村上は17年のドラフト1位だ。阪神では同じ左打ちの野手で、11年のドラフト1位だった伊藤隼太が先日、戦力外通告を受けた。穏やかな好青年だが残念な結果になった。その伊藤隼に関して、思い出すことがある。

彼がルーキーだった12年の2月。神戸で自主トレ中だったイチローと雑談した。伊藤隼は背番号「51」で愛知県出身。イチローと同じだ。それもあって伊藤隼の話を向けたら「テレビで見ましたよ」という。宜野座キャンプでの日本ハム戦だった。感想を聞いた答えはこんな感じだった。

「そりゃ、もうね。彼のタイプなら、打って走って守ってというか。全部やらないとなかなか大変でしょうね」。走攻守3拍子そろわないと活躍するのは厳しいという見立てだった。

我々メディアやファンは当時、伊藤隼がどれだけ打てるかということばかり気にしていた。イチローの視点はさすがで、確かに彼のサイズ感なら打撃はもちろん走力、守備面も重要になってくるのは当然だった。

そんなことを思い出しながら走りまくる村上を見て、ふと思い至ったのは「では阪神では誰が3拍子そろっているのか」ということだ。じっと考えたが正直「この選手」と言える存在は見当たらないという答えしか出なかった。

今季限りで構想外となった福留孝介などは若い頃、その手本のような選手だったが、現在、一番近いのは大山悠輔か。打撃は伸びたし、三塁守備もうまい。足に関しては長距離砲なので盗塁を狙う必要はないのだが、俊足というイメージはあまりないかもしれない。

もちろん、そんな選手がゴロゴロしているわけではない。坂本勇人、鈴木誠也らすぐに名前が出るのは他球団でも多くはない。

来季以降はどうか。ドラフト1位で近大から入団してくる佐藤輝明はその触れ込みのようだ。楽しみだがプロは簡単ではないと思うし、期待し過ぎもよくない。それでもそんな存在が出てくるかどうかは阪神がさらに魅力あるチームになるための大きな課題だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)