指揮官・矢野燿大が大事にするポリシーには「気づき」という言葉がある。文字通り「自分で気づく」ということだ。言葉を変えれば「自覚する」ということかもしれない。

昨年末、矢野へのインタビューで大山悠輔に関して聞いた。正月紙面で掲載されたので読まれた方もいるかもしれない。最後まで本塁打キングを争い、成長を見せた今季の大山だったが昨年までは正直、物足りなかった。

特にそう思っていた部分がなんというか見た目の様子だった。元々、闘志というか「やったるぜ」というガッツが正面に出てこないタイプなので成績が伴わないと余計に覇気なく見える。矢野は就任当初から「矢野ガッツ」と評された派手な動きをあえてつくっていた。だから、その点を指摘しないのか? と聞いた。

「指摘しない」と矢野は答えた。その理由としてこんな説明をしたのだ。「じゃあ高原さんの部下でこうしろああしろって指摘したヤツで変わったことありますか? 人って強制では変わらないんです。自分で変わろうと思ったときしか変わらないんですよ」。

指導者の手法はさまざまだろうが、このやり方で少なくとも大山の育成には成功しつつある。この日、好投した藤浪晋太郎も最後に来季以降へ希望を抱かせる投球をした。もちろん大山、藤浪自身の努力によるものだが矢野の見方をすれば2人とも自分の置かれた立場に気づき、試行錯誤の中で光明に気づいたということかもしれない。

最終試合のセレモニー、矢野は観衆を前に言った。「現状、タイガースは発展途上、未熟なチームです」。今季の戦いを見ていて誰にも否定できない事実だろう。同時に失礼かもしれないが采配、起用面を含めて矢野自身にも当てはまる言葉だと思う。

それでも少しずつだけど阪神も矢野も成長しているのではないか。昨年は3位、そして今季は貯金7で2位になった。連覇を果たした巨人とは8ゲーム差での終了だ。強かった巨人との対戦成績は8勝16敗とダブルスコアで完敗した。8つの負け越しそのままが巨人との差だった。

3年目の来季、その差が埋められるかどうか。簡単ではないが、やるしかない。そこに大事なのが「挑戦」だとあらためて気づいたということだろう。オフから始まる来季への挑戦に注目したい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)