古くさい言い回しで申し訳ないが「わが意を得たり」とばかりに感じた阪神指揮官・矢野燿大の談話だ。このオフ、ポスティングシステムでの大リーグ挑戦を断念した巨人菅野智之に関する話が11日付の日刊スポーツに載っていた。

「おもしろくなったんじゃない? 菅野に勝った1勝というのはチームとしての価値も上がる。それを打った選手の価値も上がるし、投げ勝ったピッチャーの価値も上がる」

菅野残留に関し、矢野は虎番記者にそんな感想を話したようだ。菅野がエースを張る巨人に2年連続でコテンパンにやられている現実はあるけれど、その心意気は買いたい。いや心意気だけではない。その可能性も意外にあるかも…と勝手に考えるからだ。

これまでの取材生活を通じて感じることの1つに「メジャー断念は鬼門」がある。ポスティングやFAにかかわらず、オフに大リーグ入りを目指しながら断念した選手は翌年、前年までのように活躍できないケースが多いように感じる。

モチベーションの変化によるものなのか何なのか。明確な理由は分からないがそういう状況になることはよく見てきた。元来、1年勝負の世界。ハイレベルな成績を毎年続けること自体難しいという根本的要因もあるかもしれないが、なんだか不思議な気もする。

菅野ほどの投手でもこのケースにハマるのか。それとも、そんなことは関係ないとばかり働くのか。当然、それはまだ分からない。メジャー挑戦そのものを白紙にしたわけではないだろうし、年齢を考慮しても、実力を考えれば数年はピークの状態でやれるはずだ。

それでもというか、だからこそカギは「移籍が不発に終わった今季」にあると思う。対戦する側からすれば野球人生のピークに達している菅野を打つ、攻略するチャンスも今季しかないのかもしれない。来季、大リーグに移籍すると仮定すれば全盛期の菅野と国内で対戦できる機会は今季に限られるからだ。

「オレはあの菅野を打ったんだ」。のちに自慢話でそう言える機会も多くはないということでもある。もちろん勝つために打つ…が最初に来るのだけど。とにかく今季こそはまなじりを決して菅野に襲い掛からなければならない。「菅野を撃て!」。猛虎打線、今季の合言葉は間違いなく、これだろう。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)