しびれる同点劇だ。好守を見せた中野拓夢らの活躍は虎番記者の記事で読んでもらうとして強く感じたことがある。「佐藤輝明の成長は阪神にとって必要不可欠」。当たり前だけど、そういうことだ。

9回表は同点とし、なお無死二塁。ここで佐藤輝に打順が回った。しかしベンチは代打・島田海吏を送る。言うまでもなく確実に三塁へ送り、勝ち越そうという狙いだ。島田は犠打を決めたが後続なく、勝ち越せなかった。

テルに打たせろ。心情的にはそう思った。しかし、そこは指揮官・矢野燿大の考え。そこまでの打席内容に雰囲気を感じなかったのだろう。そう思わせたのは佐藤輝の責任だ。チャンスを任せてもらうには内容、結果を見せなくてはならない。ルーキーでもプロだ。

それでも彼の存在、成長がなくてはならないと言うのは両軍の「スケール感」の違いを改めて感じたからだ。8月27日以来の4番スタメンで出た大山悠輔は1回、併殺打の間に三塁走者をかえし、3回には犠飛。4番として最低限の仕事はこなしたと言える。

だが巨人の主砲・岡本和真は3回裏に豪快な3ランを放った。思わずため息をついてしまう。もちろん大山だって1発で決める場合もある。岡本にしても常に打つはずはない。それは分かっている。それでも“直接対決”でガーンとやられるとうなってしまう。

奈良出身の岡本は高校生まで虎党だった。3番坂本勇人、5番亀井善行も関西人。いつも書くが巨人の選手は関西出身が多い。高校野球を中心にした「野球どころ」。かつて関西出身の有望選手は地元の阪神に入りたがらないとされる状況があった。個別の事情があったのだろうが結果として事実だと思っている。

それでも時代は変わり、球界、阪神を取り巻く状況も少しずつ変化。地元の大物選手も入るようになった。その象徴が佐藤輝だろう。前半戦の活躍は確実にチームの雰囲気を変えた。しかし厳しいプロの世界、その後は苦闘が続いている。

だからこそスケールの大きい選手として育てなくてはならない。岡本、ヤクルト村上宗隆らに「スケール」で対抗できるのは、現状、佐藤輝と考えるからだ。オフはもちろん残り25試合、優勝争いの“鉄火場”で鍛え上げる。それが来季以降も阪神の強さ、人気を継続するための必要条件だと改めて思う。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)