休校にともない約4カ月間休止していた神奈川公立高校の部活動が、6月29日、再開された。時間制限や、3密を避けるなどの県ガイドラインがあるものの、部活のある学校生活がようやく戻ってきたことに川和・伊豆原真人監督(42)は「長かった。3学年55人がそろい、野球部としてやっとスタートできた」と安堵(あんど)した。グラウンドは使っていないと土が硬くなり荒れてしまう。「雑草まで手が回らなくて…」と申し訳なさそうに言うものの、3人の顧問で定期的に整備してきた土はふかふかで良質に保たれていた。再開初日はサッカー部、陸上部、ハンドボール部などとグラウンドを共有し、自宅でできなかったマシン打撃やハーフバッティング、ノックなど40分間の練習を行った。井上滉大主将(3年)は「楽しくてあっという間に感じた。みんなで1つの場所に集まって練習できることが一番うれしい。オンラインミーティングでは集まっていたけど、液晶画面では言いづらいことが言えない。顔を見て話すことが大事だと改めて思いました」と目を輝かせた。


■監督は、グラウンド整備と数学の動画配信


伊豆原監督は休校中、グラウンド整備と並行して尽力していたことがある。数学3授業のフォローアップだ。川和は県内屈指の進学校で、野球部からも東大、京大、東工大、一橋大などの国公立大、難関私学に多数合格者を出している。数学教員でもある伊豆原監督は野球部を含む理系150人の生徒に授業プリント、入試対策プリント、講義式の動画授業を配信。勉強の面からも生徒たちをサポートしてきた。「中高一貫校は高2で数学3の履修が終わっているという状況。うちは実質4カ月のブランクがある。大学入学共通テストが通常日程で行われることが決まった今、勉強の不安を軽くしてあげることが大事」と話す。6月は積分の授業を配信したという。


秋のレギュラーで、東大志望の青山勝繁選手(3年)は「代替大会が8月1日からと決まったので、ここから1、2カ月は仲間と思い切り野球を楽しみます!」と笑顔で宣言した。もちろんこの言葉が出るまで、さまざまな葛藤があったという。休校中の4カ月間を振り返る。

「普通だったら7月まで部活に打ち込み、8月から受験勉強という流れだったじゃないですか。それがコロナで予定が変わってしまった。『いつまで続くんだろう』と不安はありました。でも、ふと『休校の間、勉強と野球、自分の時間でやれるな』って思ったんです。野球ができない間、勉強を進めておこうと思った。モチベーションが上がらないときはLINEで仲間と話し合ったり、自分の勉強量をアプリに記録してモチベーションを上げていました」。そして「川和で野球部に入ると決めたときから、そういう考えでやってきたので…」と付け加えた。


伝統的な文武両道のマインドについて伊豆原監督は「『野球と勉強の切り替え』という言葉がウチの子たちには無いのかもしれないですね』と感心しながら笑った。「『自分に必要だからやる』という考え。野球も勉強もどちらも大事。彼らは12時間勉強しても、必ず2時間はトレーニングに充てる。だから、コロナのような外的ストレスが加わってもブレません。見ていてこちらが感心するときがありますよ」。

井上主将は休校中「野球がどうなるかわからない中、勉強に切り替えるやつが出てもおかしくない。引退したいという仲間が出たときは、その考えを尊重しよう」と覚悟したと言う。しかし21人いる3年生の中で、部をやめたいと言う者はいなかった。「勉強を優先したい気持ちはある。でも最後まで全員でやり切ろう」と、思いが固まった。「練習不足の中、大会でベストを出せるか? と聞かれたら多分出せないと思う。でも1カ月間の練習で最大級を出せるように頑張りたい。そして勝ちたい」(井上主将)。一緒に過ごせる時間は短いかもしれない。「でも大事なのは、そこじゃない」と言い切る。【樫本ゆき】

休校中、保護者会で作ったおそろいのチームTシャツを着て取材を受ける井上主将
休校中、保護者会で作ったおそろいのチームTシャツを着て取材を受ける井上主将