重圧ニモマケズ強敵ニモマケズ-。第97回全国高校野球選手権岩手大会(7月10日開幕)の組み合わせ抽選会が23日、盛岡市内で行われた。春の県大会で8強入りし、87年以来28年ぶりシード校の花巻農は、初戦の2回戦で葛巻との対戦が決まった。同校では稗貫(ひえぬき)農学校時代に詩人、童話作家の宮沢賢治が1921年(大10)~26年春まで教壇に立った。賢治先生を身近に感じられる環境にいる選手たちは、無欲で上位進出を狙う。

 シード校の重圧ニモマケズ。初戦が葛巻に決まっても「相手がどこでもやることは一緒」。菅原健太主将(3年)は冷静に、闘志を内に秘めるように言った。

 偉人を身近に感じる。学校敷地内に宮沢賢治の銅像があり、私塾、独居生活を送っていた「羅須地人(らすちじん)協会」の建物が保存され観光客が訪れる。校舎には賢治が作詞した精神歌の歌詞の一部「ワレラ ヒカリノ ミチヲフム」と記された看板が掲げられる。

 「ヒカリを勝利と思っているので、部のスローガンみたいなものです」と話す菅原主将は、市内の宮沢賢治記念館にも「行ったことがある」。2、3年生は1年時に国語の授業で精神歌を学んだ。かつては練習後「雨ニモマケズ」を全員で唱和するのが恒例になっていた。

 横手と下手を使い分けるエース右腕菊池宜伸(3年)が踏ん張り、失点しても打線がカバーする。3月に甲子園出場経験校の遊学館(石川)と練習試合を行い2試合で47点取られた。実力を思い知らされ、国保陽平監督(28)は「逆に吹っ切れたのでは」と話し、選手は欲を出さなくなったという。春の県大会も「1勝を目標にしていた」と菊池。その結果が夏のシード権獲得の準々決勝まで進み、優勝した一関学院に2-3と互角の戦いを演じた。

 菅原主将は欲ニモマケズ「あんまり上を見ないで、目の前の試合に集中したい」と強調した。無欲で強敵ニモマケズ、過去最高68年の8強以上を、天国で見守る賢治先生に届ける。【久野朗】

 ◆宮沢賢治と花巻 賢治は1896年(明29)8月27日、岩手県稗貫郡里川口村生まれで、村は現在の花巻市に含まれる。花巻川口尋常高等小学校で学び、盛岡高等農林学校(現岩手大農学部)卒業後、1921年(大10)12月に稗貫農学校(23年4月花巻農学校に改称、現花巻農)教師になり、花巻で農業指導をしながら、詩や童話の創作を続けた。花巻市内には、宮沢賢治記念館、宮沢賢治童話村などの施設がある。