決勝は智弁学園(奈良)対高松商(香川)に決まった。高松商は延長11回、「植田兄弟」の兄響介捕手(3年)が中前打を放って勝ち越しに成功。4-2で秀岳館(熊本)を破り、1961年以来55年ぶりの決勝で、56年ぶり3度目の優勝を狙う。

 これが伝統の粘り勝ちだ。高松商の4番植田響がナインの気持ちをバットに乗せた。延長11回1死一、三塁。「全員でつなぐ野球をやってきた。ここで4番が打たないと勝てない」。やや外寄りの直球をたたくと、するどい打球が決勝タイムリーとなって中前で弾んだ。三塁側アルプスが一斉に沸く。第1回優勝の「レジェンド公立校」の4番は、やはり頼れる男だった。

 4打席目まで無安打にも冷静だった。「それまで、すべて初球が直球だった。最後も絶対に初球は直球と思っていた」。捕手としての読みがさえた。これまで長尾健司監督(45)から「自分で考えること」を教えられてきた。大事な場面で「自分で考えて」勝利を手にした。「監督からは任せたと言われました」。創部100年を超える伝統の4番。高校入学後、ソフトバンク柳田を目標に1・2キロの木製バットでフルスイングを重ねてきた。その成果が殊勲打を含む2打点に結びついた。

 祖父隆さん(68)が昨年12月に軽い脳梗塞で倒れた。美容師の仕事に復帰したが、甲子園には来られなかった。植田響、植田理の兄弟は両親が共働きのため、近所の祖父母の家で夕食をとることが多く「今の体は祖父母が面倒みてくれたおかげ」(植田響)という。テレビ観戦の祖父への最高のプレゼントにもなった。

 前日29日の練習ではシート打撃を延長12回分行った。「打線のエンジンのかかりが遅いので長くやった。結果的に良かった」(長尾監督)。直前でも、しっかり準備もしていた。

 1924年(大13)の第1回大会、1960年(昭35)に次ぐ56年ぶり3度目の優勝に王手がかかった。「ここまで来たら優勝したい」(植田響)。大正、昭和、そして平成。「レジェンド公立校」が高校野球の歴史にまた新たな金字塔を立てる。【浦田由紀夫】

 ◆商業高校の決勝 春夏を通じ99年春の水戸商以来。優勝は96年夏の松山商が最後で、春は渡辺智男(元ダイエー)がいた85年伊野商以来出ていない。